春秋(24年5月8日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)4月末に発令された叙勲受章者の一覧を読んだ。

種々様々な肩書が並んでいて、興味深い。社会に欠かせないが、日ごろ光があたらぬ仕事も多い。元消防団の副団長、統計調査員、クレーン運転士……。膨大なリストを追うと、時おり登場する「保護司」が目に留まった。

 

(2)▼犯罪や非行をした人に寄り添い、立ち直りを支える非常勤の国家公務員。原則無報酬のボランティアだ。その日本独自の制度がいま、曲がり角を迎えている。なり手が減っているのだ。結果、全国4万7千人の8割が60歳以上に。法務省の有識者検討会が、インターンシップによる公募や報酬制導入の是非を議論している。

 

(3)▼対象者の変化に目を配り、家族の間にも入り込む職責は実に重い。

待遇や名誉だけではできまい。少年院向けにDJ番組の制作などに取り組んできた保護司の大沼えり子さんは、ある少年の仕事場を訪れた時に胸がいっぱいになったそうだ。「この笑顔があるから私は保護司を続けていける」(「君の笑顔に会いたくて」)

 

(4)▼保護司の方々の作品を集めた「更生保護こころの俳句集」(日本更生保護協会)にもこんな句があった。

「薫風(くんぷう)やわれも恩赦の式にあり」。伴走の相手が過ちを深く悔い、ふたたび罪を犯す恐れがなくなったと認められた。初夏の風のごとく清々(すがすが)しい心境が想像できる。そんな充足感を、あまねく知ってもらう手を考えたい。