中小賃上げへ、アメとムチ 価格転嫁「Gメン」1割増/適正取引なら法人税優遇(24年5月3日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)要点

中小企業庁は4月から取引先への価格転嫁が進んでいるかを調べる「Gメン」を1割増やし330人とした。適正な取引を実施している企業には賃上げ税制を通じて法人税を優遇する方策も用意し、硬軟織り交ぜて賃上げ定着を狙う。

(2)「下請けGメンは年間1万社を対象に価格転嫁の状況を調査する」

(3)「経産省の幹部が業界団体に中小企業の賃上げと価格転嫁を直接要請」

(4)「中小企業庁は価格転嫁が不十分な企業は社名公表もする」

(5)「公正取引委員会は優越的地位の乱用を監視」

(6)「優遇策は「パートナーシップ構築宣言」で税優遇や補助金」

(7)「下請法違反にはペナルティー」日産、コストコ、三菱食品

(8)「春闘では30年ぶりに平均賃上げ率が5%超」

 

記事

 

写真 政府が中小企業の価格転嫁を後押ししている

 

(1)要点

政府が賃上げの裾野拡大に力を入れている。

中小企業庁は4月から取引先への価格転嫁が進んでいるかを調べる「Gメン」を1割増やし330人とした。適正な取引を実施している企業には賃上げ税制を通じて法人税を優遇する方策も用意し、硬軟織り交ぜて賃上げ定着を狙う。

 

(2)「下請けGメンは年間1万社を対象に価格転嫁の状況を調査する」

「下請けGメン」は2017年度に80人で発足した。22年度には248人に増員しており、今年度はさらに増やした。

年間で約1万社を対象に価格転嫁の状況を調査する。

24年度は新たに「手形」などの支払い条件や、自動車部品の生産に使う金型を無償で下請けに保管させる「型取引」といった個別の商習慣にも目を光らせる。

金型産業は中小企業が多く、取引先から過剰な負担を強いられているケースがある。

個別の商習慣の詳しい調査によって、いびつな取引を是正し、小規模な企業でも賃上げができる環境を整える。

 

(3)「経産省の幹部が業界団体に中小企業の賃上げと価格転嫁を直接要請」

取引関係で立場が弱い企業に集中聞き取りも実施する。

独占禁止法が規制する優越的地位の乱用や、下請法違反にあたる「買いたたき」行為などもすぐに把握できるようにする。

(経済産業省の吉田宣弘政務官)

「賃上げの原資が確保されるよう、サプライチェーン(供給網)全体で価格転嫁を推進していくことが重要だ」と、4月22日、日本スーパーマーケット協会など流通関係の業界団体のトップに要望した。

経産省の幹部が業界団体に中小企業の賃上げと価格転嫁を直接要請するのは今春から始めた取り組みだ。

斎藤健経産相らは日本自動車工業会や日本産業機械工業会にも要請した。

 

(4)「中小企業庁は価格転嫁が不十分な企業は社名公表もする」

中小企業庁は21年以降、半年に1回、価格転嫁に関するアンケート調査を実施する。現在は約30万社が対象だ。

(帝国データバンクによる2月の調査)

コスト上昇分を販売価格に多少なりとも転嫁できている企業は75.0%を占め、22年の69.2%から5.8ポイント増えた。

一方、全く価格転嫁ができないと答えた企業も12.7%ある。

 

(5)「公正取引委員会は優越的地位の乱用を監視」

監視の目を光らせる。優越的地位の乱用の恐れがある企業を調べる専任の部隊を22年に設けた。発足当初の16人から今年度は100人に増員する。

 

(6)「優遇策は「パートナーシップ構築宣言」で税優遇や補助金」

下請けとの適正な取引にのぞむ企業には優遇策もある。取引先に対し不合理な価格交渉をしないと約束する「パートナーシップ構築宣言」に名を連ねると、賃上げ時に法人税の負担を軽くするための税優遇や補助金で加点措置の恩恵を受けられる。トヨタ自動車や関西電力など約4万5700社が名を連ねる。

賃上げの促進に向け制度を拡充した。今年度以降、大企業では賃上げによる給与の増加分の最大35%を法人税から控除する仕組みを設けている。

 

(7)「下請法違反にはペナルティー」

1)日産自動車やコストコ

 3月には下請法違反で公取委の勧告を受けた日産自動車や、会員制量販店「コストコ」を運営するコストコホールセールジャパンがパートナーシップ構築宣言の専用サイトから削除された。今後少なくとも1年間は再掲載されず、税控除などの恩恵を受けられない。

2)マツダ

 21年に公取委から下請法違反に基づく勧告を受けたマツダは、下請けに対し必要以上に要求していた金銭を全額返金した。

再発防止に向け、法務部門による点検強化や下請け取引に関わる従業員教育の徹底を進めている。

3)三菱食品

 22年、取引先と適切な価格転嫁の協議をしなかったとして公取委から社名が公表された13社・団体のうちの一社だ。

同社も取引先との対話の改善を進め、今では価格協議への呼びかけに応答がない取引先には積極的に声かけも実施している。同社は、人件費の増加を理由とした価格交渉についても「妥当な要望であれば受け入れている」と話す。

 

(8)「春闘では30年ぶりに平均賃上げ率が5%超」

 連合による24年春季労使交渉(春闘)の第4回集計では、平均賃上げ率は5%を超え、およそ30年ぶりの高水準となった。

1年後の春闘でも賃上げ機運が続くよう、政府による取引適正化の動きはさらに強まる見通しだ。