春秋(24年5月3日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)デジタルという言葉を知らない昔からいまも変わらず。

季節の移り変わりをゆったり告げてくれるものの一つに渡り鳥の飛来がある。

遠い海の向こうから、そろそろやって来るのがホトトギス。この鳥が題材の、ちょっとユニークな一句がある。「時鳥不如帰遂に蜀魂」

 

(2)▼「ほととぎすほととぎすつひにほととぎす」と読むこの句の作者は勝海舟。

いわく「人生すべてかくのごとしサ」(「氷川清話」)。時流に乗って活力あふれるころや、壁にはね返された後の失意の日々など。人生にはいくつかの段階がある。この鳥を指す様々な漢字の意味にそれを託し、長い時間軸で大づかみに表した。

 

(3)▼新型コロナウイルスが5類に移行してから、初めてのゴールデンウイークが後半に入った。

ふるさとや国内外の旅先、あるいはいつもの自宅の部屋で。

「タイパ」という言葉に象徴されるような、効率重視で細かく刻んだ時の流れから自分を解放し、のんびりと過ごしたい。せわしないスマホのチェックもしばし封印して。

 

(4)▼悩ましいのは行楽地の長蛇の列と、気が遠くなりそうな高速道路の渋滞か。

思わず心がざわつきそうになったときは、ふうと深く長い息をしてみる。すると目に映る景色が、さっきとは少し違って見えるかもしれない。3人の戦国武将の性格を例えた句なら前の2人ではなく、ここは「鳴くまで待とう」のゆったり気分で。