34年ぶりの円安水準で注目される「リパトリ減税」導入、6月の骨太方針に明記の可能性も(24年5月1日 産経新聞オンライン無料版)

 

記事(西村利也)

 

(1)要点「海外資産を日本に送金する日本企業の法人税を減税する「リパトリ減税」は」

約34年ぶりとなる円安・ドル高水準が続く中、円安対策として、海外資産を本国に送金する日本企業の法人税を減税する「リパトリ減税」が導入される可能性が出てきた。

外貨を国内に還流させて円への交換を促す狙いがあり、6月にまとめる経済財政運営の指針「骨太の方針」に内容が盛り込まれるか注目されている。

28日投開票の衆院3補欠選挙に自民党が全敗したこともあり、岸田文雄首相(党総裁)も支持率回復に向け、国民受けの良い円安是正策として、減税策を打ち出す可能性がある。

 

海外利益を国内に還流し円買い促進

 

(2)「リパトリ減税 米では法人税収が増えドル高になった」

海外の資産を積極的に国内に還流させ、企業の設備投資増加や雇用の拡大を喚起する狙いがある。

米国では2005年の1年間に限り、当時のブッシュ政権が導入した。

04年までの3年間平均で約1500億ドルだった米国の法人税収は、導入後の05年に約2800億ドルに急増。

さらに、リパトリエーション(資金還流)が起こり米ドルが全面高となり、04年末に1ドル=103円台だった相場は118円台までドル高・円安が進行した。

 

(3)「自国経済を活性化させ円安是正も図れるリパトリ減税は「正攻法」だ」

6月にまとめる骨太の方針では、「日本企業が海外で得た利益の国内還流策」としてリパトリ減税導入に向けた方針を示すとの見方が広がっている。

他国の経済に影響を及ぼす為替介入とは異なり、自国企業の資金を国内に還流することで経済を活性化させ、かつ円買いを促して円安是正も図れるリパトリ減税は、「正攻法」として早期導入を求める有識者も多い。

 

(4)「日本企業が海外子会社で得た収益20兆円の半分が現地再投資に」

減税の対象と想定しているのは、日本企業などが海外子会社などから得た「対外直接投資収益」の約20兆円だ。

財務省の財務官が3月26日に開いた日本経済の課題を議論する懇談会の初会合では、投資収益の半分が現地で再投資されて日本に戻ってこない点が課題として指摘されていた。

この投資収益を日本に送金する際にかかる税金を時限立法で減税し、日本に還流させる策を検討するとみられる。

 

 

税優遇も日本に外貨還流しない現状

 

(5)「現行、外国子会社からnお配当の95%相当額を非課税所得にする優遇があるのだが」

ただ、日本では09年度の税制改正で、外国子会社から受ける配当の95%相当額を非課税所得とすることを認める「外国子会社配当益金不算入制度」という税優遇策が導入されている。

海外子会社の所在国と日本での二重課税を防ぎ、海外で稼いだ利益を日本へ還流させる目的で導入された。だが、その利益の大半は、日本より金利が高く成長余力がある海外で再投資されているのが現状だ。

また、仮に非課税となっていない残り5%の配当益金を税優遇したとしても、大きな還流効果は見込めないと見る向きも強い。

 

(6)「企業の賃上げや設備投資の原資に活用する企業には税優遇や補助金もあり得る」

一方で、そうした状況下でもレパトリ減税導入を求める声もある。財務官の懇談会に出席した(みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミスト)

 「少しでも外貨の日本への流入が必要だと考えるのであれば、この5%に対してでも税優遇は必要で、企業に対するメッセージになる」と強調。

物価高を受け、企業のさらなる従業員の賃上げが求められる中で、「賃上げの原資として海外で稼いだ利益を日本に還流させる当てもある」と説明する。

それでも還流しないことを想定し、「還流させた利益を国内の賃上げや設備投資に使った企業に税優遇や補助金を与えるなどのインセンティブ(動機づけ)を考えるべき」とも提案する。(西村利也)