子供だって言わせてほしい…軽視されがちな声をすくいあげる「意見表明権」の新制度始まる(24年4月30日 産経新聞オンライン無料版)

 

記事(西山瑞穂)

 

(1)子供には声を上げ、声を尊重され、意思決定に参加する権利がある-。

「意見表明権」といわれるこうした考えを前提とした新制度が4月、虐待を受けるなどして児童相談所と接点がある子供らを対象に始まった。

意見表明権を重視する国連の「子供の権利条約」を日本が批准して今年で30年。実現に向けて動き出した背景には「子供の声が軽視されている」との危機感もある。

 

(2)一時保護所や児童養護施設で「言いたいことがあれば何でも言っていいよ。それは権利だから」

子供の代弁者(アドボケイト)として活動するNPO法人「子どもアドボカシーセンターOSAKA」(堺市)代表理事の奥村仁美さん(63)は、自治体の委託を受けて定期的に一時保護所や児童養護施設などを訪問し、こう呼びかける。子供の声は置かれた立場への戸惑いや生活面の要望などさまざまだ。

「いつ家に帰れるの」「不安になるから夜も電気を消さないでほしい」

「保護してもらった」との遠慮からか、普段は口に出せなかった言葉が漏れる。奥村さんは大人目線の「正しいこと」は言わない。子供に寄り添いながら、言葉の根底にある心の声を言語化するのを手助けし、望むなら職員側にただ伝える。

 

(3)行政とは別の第三者が子供の〝小さな声〟を届ける「アドボカシー制度」の整備は、意見表明等支援事業として、4月施行の改正児童福祉法で児相設置自治体の努力義務となった。

こども家庭庁によると、都道府県や政令指定都市など78自治体のうち20超が昨年までにモデル事業を始めており、拡大が期待される。

また改正法は、児相が一時保護や施設などへの入所措置を行ったり、解除したりする場合に、当事者である子供の意見を聞かなければならないとも定めた。

 

(4)法改正の背景には、SOSを出したのに関係機関が重視せず、虐待死した子供らの存在がある。

厚生労働省の調査では、意見を聞かれないまま支援方針が決まったなどとして、社会的養護のもとにいる子供が不信感や声を上げることへの諦めを抱いたケースが少なくないことも分かった。

 

 

児相は子供の「最善の利益」のために動くが、大人が考える「最善」と子供の思いは時に食い違う。それでもまずは、思いを最大限受け止めるべきだ-。アドボケイトを導入することで、児相側がそうした自覚を持つようになった例もある。

 

(5)兵庫県弁護士会で子供のアドボケイトとして活動し、児相内部にも関わる曽我智史弁護士(45)によると、令和3年の事業開始以降、児相が子供の支援方針を決める会議で、職員から「子供の意見はどうなっているのか」という発言が以前よりもよく出るようになったという。

同県明石市では会議にアドボケイトが出席し、直接子供の言葉や思いを伝えることも認められた。

結果的に望み通りにならなかったとしても、大人がその理由について説明を尽くせば、子供は「声を受け止めてもらえた」と感じる。

こうした体験の積み重ねこそが子供を力づけるといい、曽我弁護士は「新制度が形だけにならないよう、大人たちが意見表明権の本質を理解することが重要だ」と話す。

 

 

政策決定、学校現場…社会の意識は変わるか

 

(6)意見表明権は全ての子供にあるが、とりわけ声を上げづらい子供が多い児童福祉の分野で議論が先行した。昨年4月にはこども家庭庁が発足し、社会全体で尊重しようとする動きが加速している。

 

(7)子供の権利条約を踏まえ、同月施行された「こども基本法」。

意見表明権を基本理念にうたい、国や自治体が子供に関わる施策を策定・実施・評価する際に、当事者の意見を反映するための措置を行うよう義務づけた。

同庁が今年3月にまとめたガイドラインは、子供の意見を聞く方法として、審議会委員への子供や若者の登用や、子供らによる会議体の設置、ワークショップといった方法を例示。こうした場で安心して意見を言えるよう手伝う「ファシリテーター」を希望自治体に派遣する事業も始めた。

 

(8)同庁は昨年11月から、山梨県や滋賀県近江八幡市など4自治体にファシリテーターを派遣。近江八幡市では児童クラブの運営について小学生が話し合う場が設けられ、市職員らがファシリテーターのノウハウを学んだ。

学校現場でも、令和4年12月に改訂された教員用の手引書「生徒指導提要」が、教職員には意見表明権などへの理解が「不可欠」と指摘。校則についても見直しが絶えず必要とした上で、その過程に児童生徒自身が参加することは「教育的意義を有する」と強調している。(西山瑞穂)

 

(9)熊本学園大の堀正嗣教授(子どもアドボカシー)「言いなり」ではなく傾聴と対話

 社会は、子供に関わる重要なことを保護者や児童相談所などの大人が決める仕組みになっている。その際に意見や希望を聞かれ、尊重され、決定の際にどのように考慮したかをフィードバックされる権利が意見表明権だ。意見の尊重とは子供の「言いなり」ということではなく、傾聴と対話のプロセスだといえる。

 子供が声を上げることは難しい。上げられたとしても非常に小さく、届きにくく、無視されがちだ。

 儒教的な「長幼(ちょうよう)の序」が根強い日本では「子供は黙って大人に従え」という風潮もある。そんな状況に置かれた子供にとり、意見表明を支援し、権利を守ろうとする「アドボカシー」は不可欠な活動になる。

 

こども基本法やこども大綱、改正児童福祉法は画期的で、大きな動きとして評価できる。今後は「子供主体」の理念を現場で実践する仕組みづくりや人材育成が重要になる。

 

<私見:

(9)堀先生の意見の内「儒教的な「長幼(ちょうよう)の序」が根強い日本では「子供は黙って大人に従え」という風潮もある」は、日本の江戸時代の林羅山が都合良く取り入れた部分が、そのまま残っている。儒教には「子供は黙って大人に従え」とは別の人間関係の規律もある>

 

■子どもの権利条約 (児童の権利に関する条約)全文(政府訳) UNICEF

(抄録)

前文の片カッコの番号は、取り上げた条文にwelkanaがつけた

文節の頭の番号はこのアプリが自動的に付したもの

 

前文

1)家族が、社会の基礎的な集団として、並びに家族のすべての構成員特に児童の成長及び福祉のための自然な環境として、社会においてその責任を十分に引き受けることができるよう必要な保護及び援助を与えられるべきであることを確信し、

2)児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め、

 

3)児童の保護及び調和のとれた発達のために各人民の伝統及び文化的価値が有する重要性を十分に考慮し、

あらゆる国、特に開発途上国における児童の生活条件を改善するために国際協力が重要であることを認めて、

次のとおり協定した。

 

第1条

この条約の適用上、児童とは、18歳未満のすべての者をいう。ただし、当該児童で、その者に適用される法律によりより早く成年に達したものを除く。

第3条

  1. 児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。
  2. (この見出し番号は不要)第5条 締約国は、児童がこの条約において認められる権利を行使するに当たり、父母若しくは場合により地方の慣習により定められている大家族若しくは共同体の構成員、法定保護者又は児童について法的に責任を有する他の者がその児童の発達しつつある能力に適合する方法で適当な指示及び指導を与える責任、権利及び義務を尊重する。
  3. (この見出し番号は不要)第9条
    1. 締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。このような決定は、父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。
    2. すべての関係当事者は、1の規定に基づくいかなる手続においても、その手続に参加しかつ自己の意見を述べる機会を有する。
    3. 締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。

 

  1. (この見出し番号は不要)第12条
    1. 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
    2. このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。
  1. (この見出し番号は不要)第13条
  1. 児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
  2. 1の権利の行使については、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
    1. 他の者の権利又は信用の尊重
    2. 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護