核心 借金への呵責なき巨大政府(編集委員) 大林尚(24年4月29日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)「「異次元の少子化対策」の雲行きが怪しい」

(2)「感染症パンデミックのあと出生回復するはずだが日本は下がりっぱなし」

(3)「税でも社会保険料でもない鵺(ぬえ)のような子ども・子育て支援金」

(4)「話がこじれた要因 1)消費税増税の封印 2)財政資金のばらまき」

(5)「子供1人あたり家族関係支出をGDP比16%にする」

(6)「父親の育児参加が少ない」

(7)「事実婚や選択的夫婦別姓で働く上での物理的・心理的負担をなくすことが必要」

(8)「同性婚法制化を 他人と違っても気にしない生き方暮らし方が当たり前の社会に」

(9)「財政赤字を含めた潜在的な国民負担率は日本のほうが57.3%と高い」

(10)「スウェーデンはコロナ対策や社会保障や教育などは今の世代が負担している」

(11)「コロナ禍初期、安倍晋三首相も対策の規模を誇っていた」

(12)「スウェーデンは中負担・中福祉、日本の将来は超高負担・中~低福祉」

 

記事

 

(1)「「異次元の少子化対策」の雲行きが怪しい」

岸田文雄首相にとって政策の一丁目一番地であるはずの「異次元の少子化対策」の雲行きが怪しい。

5月の連休明けには、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同等に緩和して丸1年になる。

国内の人の移動が空前の活況を呈し、インバウンド客の水準はコロナ前を回復した。サービス業は一様に人材不足にあえぐ。

 

(2)「感染症パンデミックのあと出生回復するはずだが日本は下がりっぱなし」

日本経済は名実ともにコロナ後だが、肝心の出生数はコロナ禍を引きずったままだ。

人口動態統計をみると、外国人を含む出生数は単月ベースで昨年来、一貫して前年水準を下回っている。

感染症パンデミック(世界的大流行)の渦中は出生数が減り、終息後には減った分を取り戻すように急増する補償的増加が起こるのは、世界の歴史が教えるところだ。だが日本のコロナ後は通説が通らない。

 

(3)「税でも社会保険料でもない鵺(ぬえ)のような子ども・子育て支援金」

2023年の年頭記者会見で首相は「若い世代からようやく政府が(対策に)本気になったと思ってもらう」と見えを切った。その財源を工面しようと、子ども・子育て支援金の制度化を強行する。

だが税でも社会保険料でもない鵺(ぬえ)のようなこの制度は、健康保険料を流用している、低所得層ほど負担が重いなど、若い世代を含めて評判はさっぱりだ。

 

(4)「話がこじれた要因 1)消費税増税の封印 2)財政資金のばらまき」

話がこじれた要因は大きく2つ。消費税増税の封印と財政資金のばらまきだ。

1)消費税増税の封印

財務省幹部は「消費税の議論を始めようという空気は政権内にも与党内にも1ミリさえない」と、セカンドベターとしての支援金を正当化する。

2)財政資金のばらまき

かたや少子化対策としての効果が乏しい児童手当の所得制限撤廃など、与党があっという間に既成事実化したばらまきを止めようとはしない。

 

(5)「子供1人あたり家族関係支出をGDP比16%にする」

くだんの年頭会見を機に、首相は関連予算の倍増をめざして年間3兆6000億円を恒常的に追加する、と繰り返してきた。

この金額の根拠をたどると「子供1人あたり家族関係支出がGDP(国内総生産)比16%と、OECD(経済協力開発機構)トップのスウェーデンに達する水準となり、画期的に前進する」(1月30日、衆参両院本会議での施政方針演説)という岸田ドクトリンに行き着く。

女性1人が生涯に産む子供数の理論値である合計特殊出生率は日本が1.30、スウェーデンは1.67だ(21年)。そのスウェーデンもウクライナ戦争の余波による経済停滞で低下基調にある。果たして予算を同水準に増やせば日本の少子化は止まるのか。

 

(6)「父親の育児参加が少ない」

まだ日が高い午後、ストックホルムの住宅街を歩くと、公園で子供を遊ばせる父親を見かけることがある。

男性に育児休暇を取らせることに懸命な日本だが、取得率が上がればいいわけではない。母親に代わって保育園へ子供を迎えに行き、帰りは公園でパパ友どうし談笑する。この光景が日常になるのはいつか。

 

(7)「事実婚や選択的夫婦別姓で働く上での物理的・心理的負担をなくすことが必要」

婚外子割合が50%を上回るスウェーデンに対し、日本は2%台だ。

社会規範や家族観の違いがあるとはいえ、婚姻数が出生数の先行指標のままでは子供は増えまい。

事実婚や選択的夫婦別姓をごくふつうのことにして、男女ともに働くうえでの物理的・心理的負担をなくすのが、よく効く少子化対策の一つであろう。

 

(8)「同性婚法制化を 他人と違っても気にしない生き方暮らし方が当たり前の社会に」

要は、他人と違っても気にしない生き方・暮らし方があたりまえの社会にすべきなのだ。

その点で、同性婚の法制化について「きわめて慎重に検討すべき課題」「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題」(23年2月1日の衆院予算委答弁)という岸田氏の考え方は周回遅れである。

 

(9)「財政赤字を含めた潜在的な国民負担率は日本のほうが57.3%と高い」

さらに大切な視点がある。スウェーデンの財政運営だ。コロナ禍さなかの21年(度)の国民負担率は55.0%と日本の48.1%を上回るが、刮目(かつもく)すべきは財政赤字ゼロと、無借金の財政運営を貫いた事実である。

この結果、財政赤字を含めた潜在的な国民負担率は日本のほうが57.3%と高い。

児童手当のばらまきは衆院を通過した関連法案が成立すれば10月に始まる。子育て支援金が軌道に乗るまでの間、財源はこども特例公債なる特会債でまかなう。

日本の借金漬け体質は強まる一方だ。

 

(10)「スウェーデンはコロナ対策や社会保障や教育などは今の世代が負担している」

高負担・高福祉国家の代名詞のように言われるスウェーデンだが、コロナ対策のみならず社会保障や教育などに使う予算は、今を生きる世代が責任をもってまかなっているわけだ。

私たちは家族関係支出の規模を後追いするのではなく、この質実な財政運営こそをまねすべきである。

 

 

 

(11)「コロナ禍初期、安倍晋三首相も対策の規模を誇っていた」

そういえばコロナ禍初期、安倍晋三首相も対策の規模を誇っていた。「GDPの4割にのぼる空前絶後の規模、世界最大の対策で100年に1度の危機から日本経済を守りぬく」(20年5月25日の記者会見)。

その後、病院が空床を確保すれば多額の金が入ってくる頓珍漢(とんちんかん)な補助金を厚生労働省が編み出して「幽霊病床」を出現させたのは周知のとおりだ。

 

(12)「スウェーデンは中負担・中福祉、日本の将来は超高負担・中~低福祉」

借金への呵責(かしゃく)なき巨大政府である。ロシア軍のウクライナ侵略以降、5兆円近くをつぎ込み、今もずるずると延長をしているガソリン代への補助金も同じ文脈で考えれば分かりやすい。納税者や有権者は当座、負担の痛みを感じないので時の為政者にとってこんな都合のよい財政運営はなかろう。

借金に頼らず中負担・中福祉を実現したスウェーデンに対し、日本は中負担・高福祉といったところか。将来の世代に待ち受けるのは「超高負担・中~低福祉」となる。

 

<私見:

あたしは日本経済新聞で大林さんの記事を大変、尊重しています。だから、ひとこと疑問を出させていただきます。

基本的に安倍政権は30年のデフレからの脱却のための政策を行っていました。その観点から評価するのが当然。

 

(4)「話がこじれた要因 1)消費税増税の封印 2)財政資金のばらまき」

「消費税増税」

 脱コロナ政策で消費需要を引き上げようとしているときに「家計の負担増」という選択はあり得ない。

「児童手当の所得制限撤廃」

 所得制限の方法が「世帯で一番収入が多い人の年収が960万円以下」だった。これでは夫800万円、妻500万円の世帯が受給できて夫1000万円家族は妻専業主婦、子4人の6人世帯には支給されない。6人世帯で1000万円だから1人当たり167万円の世帯が受給できないで、総収入1300万円で3人世帯(1人当たり433万円)が受給できるというトンチンカンな所得制限となっている。また、家族社会学では、子どものいない夫婦よりも子どもが2人いる世帯の方が現金給付の出生増に効果的という統計的知見もある。

本来は「所得制限のやり方」の改善、または、「給付付き定額減税」や所得税課税の「N人N乗方式」(世帯収入を合計し世帯人員で割り1人当たり収入を出し、それに税率を掛けて収入のある人が納税する)などの政策変更を検討すべきだと思う。

(9)「財政赤字を含めた潜在的な国民負担率は日本のほうが57.3%と高い」

スエーデンの付加価値税(日本の消費税に似ている)の税率は25%。しかもその税収の大部分は地方自治体に配分され、地方独自の福祉をやる。日本は消費税収の2%が地方消費税となっている。だからIMFなど海外のエコノミストは、日本の人口高齢化に見合う福祉には消費税率15%が必要という。

(11)「コロナ禍初期、安倍晋三首相も対策の規模を誇っていた」

は脱デフレとコロナ不安解消の2つの目的達成の手段として誤りとは言えない。「空き病床」は自民党の利権体質。>