AI「学習拒絶」で知財保護 政府が中間とりまとめ案 利用規約作成など例示(24年4月23日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)要点

(内閣府)

22日、「AI時代の知的財産権検討会」の中間とりまとめ案を公表した。AI学習の拒絶技術の活用や利用規約の作成などを通じて知財を守るよう、取り組み例を示した。

 

 

(2)生成AIの普及を受け、欧州連合(EU)が包括的な新法で規制を図る一方、日本や米国は技術革新と安全性とのバランスを重視する。

2023年10月に始まった「AI時代の知的財産権検討会」は現行法の解釈を整理してきた。中間とりまとめは、24年6月ごろ公表する政府の知財推進計画に反映する。

 

(3)(AIサービスを提供する事業者に期待される取り組み)

知財権への配慮を盛り込んだ利用者向けの規約作成を示した。

(開発者に期待される取り組み)

知財侵害物の出力を防止する機能といった技術措置の採用を求めた。

(知財を持つ企業や個人に対して)

保護に有用な技術を例示した。膨大な情報を自動収集するプログラムを拒絶する技術や、パスワードによるアクセス制限、画像に特殊な処理を施すことで学習を防ぐ技術を挙げた。

一般利用者には、利用しようとする生成AIが知財保護を考慮しているか確認したうえでの利用を呼びかける。

 

(4)

知財を保有する企業や個人にまで対策を求めるのは、法規制の保護範囲に一定の限界があるからだ。検討会では、AIの学習がどこまで規制の対象になるか整理した。

著作物以外の意匠や商標などの知財をデータ学習に用いることは、原則規制の対象外だと確認した。例えば意匠は、商品やサービスに使われることで権利侵害が生じる。学習されること自体は権利侵害に該当しない。

著作権は文化庁の小委員会での議論を踏まえた。著作物も原則許諾なく学習できるが、権利侵害になる場合もあるとした。例えば、情報解析用に販売されているデータベースの著作物は規制の対象となりうる。

 

(5)

AIを巡るリスクが複雑化するなか、企業の間では知財権に配慮した動きが進んでいる。

デザインソフト大手の米アドビは自社の画像生成AIの学習に、許諾を得たコンテンツや、著作権が失効した素材だけを用いる。同社の生成AIが描いたコンテンツを利用する顧客企業にとっては、意図しない権利侵害を抑えられる利点がある。

 

(6)

検討会は契約による対価還元のあり方も議論してきた。知財を持つ個人や企業のデータ提供に、AI開発者・利用者が対価を支払う契約は法的に有効だと確認した。

実際に、取引のあるカメラマンらの写真を学習させた画像生成AIサービスを開発するアマナイメージズ(東京・千代田)は、利用料の一部を撮影者に還元する仕組みを採用している。

同業のピクスタは画像を外部の生成AI開発企業に学習用の素材として販売すると表明している。同社も収益の一部を撮影者に還元し、希望すれば学習素材の対象外にすることもできる。

 

■「AI時代の知的財産権検討会」委員一覧

*五十音順、敬称略

(委員)◎座長

上野 達弘 早稲田大学法学学術大学院法務研究科教授

江間 有沙 東京大学未来ビジョン研究センター准教授、

理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員

岡﨑 直観 東京工業大学情報理工学院情報工学系知能情報コース教授

岡田 淳 弁護士、森・濱田松本法律事務所

岡田 陽介 ㈱ABEJA代表取締役CEO兼CTO

奥邨 弘司 慶應義塾大学大学院法務研究科教授

佐渡島庸平 ㈱ コルク代表取締役社長

新 清士 デジタルハリウッド大学大学院教授、

㈱ AI Frog Interactive 代表取締役

竹中 俊子 ワシントン大学ロースクール教授、

慶應義塾大学大学院法務研究科教授

田村 善之 東京大学大学院法学政治学研究科教授

福井 健策 弁護士、骨董通り法律事務所

福田 昌昭 ㈱Preferred Networks コンシューマープロダクト担当 VP

◎渡部 俊也 東京大学執行役・副学長、未来ビジョン研究センター教授

【オブザーバー】

内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局

文部科学省 文化庁 著作権課

経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室

経済産業省 商務情報政策局 コンテンツ産業課

経済産業省 特許庁 総務部 総務課

法務省 刑事局 刑事課

総務省 情報流通行政局 参事官

総務省 情報流通行政局 情報通信作品振興課

総務省 国際戦略局 技術政策課 研究推進室

公正取引委員会 事務総局 官房 参事官

【事務局】

内閣府 知的財産戦略推進事務局