春秋(24年4月22日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)あんなに長い地下鉄の車両を一体どこからどうやって地面の下に入れたのか。

「考えるとまた眠れなくなっちゃう」は、昭和の漫才コンビ「春日三球・照代」の有名なギャグだ。近ごろ、このフレーズがぐるぐると頭のなかを巡って困っている。お題はデータはどこへ?

 

(2)▼原稿を書いて保存する。

その文字データはどこに行ったのか。昔なら端末本体のメモリーに記憶され、いつでも「物」として取り出している実感があった。今はクラウドというどこか遠いところにあるそうだ。実体としては、データセンターと呼ぶ最近話題の建物内のサーバーに保管されているらしい。何だか不安である。

 

(3)▼その建物が地震やテロにあって破壊されたらどうなる?

 ITに詳しい同僚に聞いてみた。「サーバーの塊(リージョン)が複数あり、顧客のファイルを絶対紛失しないよう、それぞれのリージョンが世界中でバックアップとして機能し……」。途中で理解をあきらめた。自衛のためパソコン画面を写真に撮るようにした。

 

(4)▼さらに大事な原稿は印刷しておく。

周囲には笑われるが、安心だ。わからないものは怖い。人工知能(AI)やブロックチェーンもそうだが、現代の高度なテクノロジーは一般人が肌感覚で理解できるレベルを超えている。また保存ボタンを押す。この原稿もちゃんとどこかに収まってくれたか。考え出すと眠れなくなる。