迫真 異形の企業集団SBI(3) 中途を重用「人材のるつぼ」(24年4月10日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)「会長自らのヘッドハンティングで「人材のるつぼ」に」

(2)「功ある者には禄(ろく)を与え、良識・見識ある者には地位を与える」

(3)「生え抜き社員にも目を配る」

(4)「回転ドアでなく「金融庁OBクラブ」政官界とのパイプ狙いだとの批判も」

(5)「金融庁とSBIは「監督する側」と「される側」、さて元部下との付き合い方は」

 

写真 SBI新生銀行の会長には元金融庁長官の五味氏(右)が就いた

 

記事

 

(1)「会長自らのヘッドハンティングで「人材のるつぼ」に」

「うちに来ないかね」。SBIホールディングス会長兼社長の北尾吉孝(73)は「これぞ」と思う人材にすぐに誘い水を向ける。買収先の幹部や大臣経験者、官僚OBを次々と経営中枢に迎え、多角化する複合事業の円滑な運営を狙う。全社員の9割超を中途人材が占め、様々な出自の社員が集まるSBI社内はさながら「人材のるつぼ」だ。

ベンチャーキャピタル(VC)子会社のSBIインベストメントでは、メガバンクや製薬会社出身の人材が活躍する。

国内外のスタートアップへの投資案件を取り仕切る山田昌平(38)は国際協力銀行出身だ。武田薬品工業のシャイアー買収に携わった経験などを買われてSBI入りした。山田は「多様性は組織の強みだ」と話す。

 

(2)「功ある者には禄(ろく)を与え、良識・見識ある者には地位を与える」

1999年創業のSBIが新卒採用を始めたのは2005年。中途採用に力点を置くのは必然だ。23年に暗号資産(仮想通貨)交換業のビットポイントジャパンを完全子会社にすると同社副会長の小田玄紀(43)をSBIの常務執行役員に起用するなど柔軟だ。

 

(3)「生え抜き社員にも目を配る」

「企業文化を継承するのは新卒社員だ」と考える北尾は生え抜き社員にも目を配る。

「少額投資非課税制度(NISA)口座を増やす施策は?」「ウェブ3.0の事業を考えよ」。SBIは新入社員に隔週でリポート課題を求める。時々の経営課題に直結するテーマを北尾自ら出題。提出物に目を通し、若者の意見を経営に生かす。

 

(4)「回転ドアでなく「金融庁OBクラブ」政官界とのパイプ狙いだとの批判も」

政官界の人材登用にも余念がない。

16年には元金融担当相の竹中平蔵(73)を引き入れた。17年には元金融庁長官の五味広文(74)も社外取締役に招き、22年2月に連結子会社化したSBI新生銀行の会長に就けた。

官公庁と民間企業の間で人材が頻繁に行き来する「回転ドア」の米国に対し、日本では「天下り」批判の対象になりやすい。「金融庁のOBクラブじゃないか。政官界とのパイプ狙いだ」(大手証券幹部)との指摘がつきまとう。

 

(5)「金融庁とSBIは「監督する側」と「される側」、さて元部下との付き合い方は」

SBIが気にとめる様子はない。「優秀かつ志を共有できるから採用している」(SBI幹部)。

元金融庁幹部の小野尚(64)を生命保険子会社トップに据えるなどビジネスの最前線で起用しているのはお飾りでない証左だ。それでも金融庁とSBIは「監督する側」と「される側」。SBIは官と民の新たな関係を問いかけている。

(敬称略)