EV需要減で戦略転換、米排ガス規制緩和も後押し(24年4月6日 日本経済新聞電子版)

 

要点

(10)「EVが3万ドル以下になれば大衆層に普及する」

 

記事【ニューヨーク=川上梓】

 

(1)要点「フォードはEV集中戦略を修正しHV採用に」

米フォード・モーターは4日、2030年までにガソリン車で展開する全車種でハイブリッド車(HV)を導入すると発表した。

電動ピックアップトラックなど一部の電気自動車(EV)の発売は2年延期する。

 EVの需要の鈍化や

 採算悪化、

 米政府による排ガス規制見直し

をうけ、EVに集中してきた戦略を修正する。

 

(2)「資本を賢く使ってガソリン車やHV、完全なEVを供給する」

「資本を賢く使い、適切な時期に適切なガソリン車やHV、完全なEVを市場に投入する」。ジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は同日、コメントした。30年までに現在、ガソリン車で展開する全ての車種のカテゴリーでHVモデルを提供する。

 

充電設備が不足

 

(3)HVを拡充する一方、EVは一部車種の発売を遅らせる。

カナダではオンタリオ州オークビルで生産するEVの大型多目的スポーツ車(SUV)の発売を当初計画から2年延期し、27年とする。

米南部テネシー州の工場では新型EVトラックの納車を26年に遅らせる。当初は25年後半の生産開始を予定し、年間最大50万台を生産する計画だった。

 

 

(4)「EVの販売台数は増えており「投資は継続する」が、当面は収益性の高いHVへの投資を優先」

背景にはEVの採算悪化がある。

フォードの23年12月期のEV事業のEBIT(利払い・税引き前利益)は約47億ドル(約7100億円)の赤字だった。採算悪化を受け、23年末にEV投資を見直す方針を示していた。

EVの販売台数は増えており「投資は継続する」(同社)ものの、当面は電池などの先行投資が少なく、収益性の高いHVへの投資を優先する。

 

(5)「フォードの1~3月期新車販売台数はHVが前年同期比で42%増」

フォードの1~3月期の新車販売台数はHVが前年同期比で42%増え、四半期で過去最高となった。主力のピックアップトラック「マーベリック」のHVなどがけん引した。

 

(6)「ゼネラル・モーターズ(GM)」

ゼネラル・モーターズ(GM)もミシガン州の工場で電動ピックアップトラックの生産を1年遅らせる一方、プラグインハイブリッド車(PHV)を今後導入する方針だ。

 

(7)「安くて充電不要だからHV」

米国ではEVに比べて安く、使い勝手の良いHVが見直されている。

(米調査会社モーター・インテリジェンス)

 1)2月のHV販売台数は約10万6000台と前年同月比で54%増えた。

 販売全体に占める比率は22年は5%程度だったが足元は8%超となった。

 2)EVに比べた値ごろ感

 米テスラのSUVのEV「モデルY」の価格は米国で約4万4990ドルからなのに対し、トヨタのSUVのHV「RAV4」は約3万1725ドルからとなっている。

 3)充電インフラが不要

 1回の充電で走行できる航続距離が150キロメートルのEVでは充電時間は短くても30分かかる。HVは給油だけで走行でき、コストパフォーマンスが高い。充電網整備が進まない中で、解決策としてHVを選ぶ人が増えている。

 

 

(8)「政府が3月に排ガス規制の緩和を打ち出した」

米バイデン政権が3月に排ガス規制の緩和を打ち出したことも大きい。

 環境保護庁は32年に新車の7割弱をEVにする目標を、最も低い場合で4割弱に引き下げた。

 

日本勢に追い風

 

(9)「トヨタ、ホンダ」

HVで先行するトヨタなど日本勢には追い風となる。

トヨタは米国の新車販売台数全体のうちHVを含む電動車の比率が約4割を占める。1~3月期の電動車の販売は前年同期比7割増の20万6850台と、過去最高だった。

ホンダも24年夏に北米で主力車「シビック」のHVを発売し、販売を積み上げる。

 

(10)「EVが3万ドル以下になれば大衆層に普及する」

今後、長期的にはEVは成長していくとの見方が大きい。

(英調査会社グローバルデータ)

  EVの世界需要が26年に23年の倍の2000万台を超え、35年に5000万台を上回り、HVやエンジン車を含む乗用車需要の過半を占めると予測する。

(米アリックスパートナーズのアルン・クマールマネージングディレクター)

 「短期的にはHVも選択肢かもしれないが、根本的な解決策ではない」とし、「EVが3万ドル以下のより手頃な価格帯になれば大衆層に普及するだろう」と指摘している。