春秋(24年4月5日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)鈴木健二さんの「気くばりのすすめ」のブームは社会現象だった。

当時の長者番付で、上位常連の松本清張や司馬遼太郎を鈴木さんが上回ったほどだ。当初想定した読者層はビジネスパーソン。だが学生を含め若者がこぞって読んだことが、超ベストセラーにつながった。

 

(2)▼いわく、新しい仕事では失敗を恐れるな。

組織の中で自分のやりたい仕事は1%もない、まずは残りの99%を立派にやり遂げよ。英語でも数学でも、学生時代に楽しかった勉強を社会人になっても続けよう。確かに新人の心得としてうなずける話が少なくない。昭和の香りも漂うにせよ、実直な努力の勧めで貫かれている。

 

(3)▼鈴木さんが95歳で亡くなった。

自分にも厳しい人だった。NHKに入ったのは1952年。テレビ草創期で新しい番組を次々手がけたものの、ほぼすべて「他人はどう評価しようと、自分自身では40点以下の落第点」。モーレツに働きつつ、週に最低30時間は読書にあてないと仕事をこなすのに追いつかないと語っていた。

 

(4)▼民主主義の最大の敵は、自分の主張ばかりで相手の意見を聞かないことだ。

仕事をうまく回す人間関係は、秀でた才能やエリート意識からは生まれない。そんな訴えも印象に残る。入庁初日から「頭脳、知性の高い方たち」と持ち上げられた静岡県の新人職員の皆さんは、ボスの訓示と読み比べてみるのもいいかもしれぬ。