北朝鮮、全ミサイルを奇襲型に 日米韓を威嚇(24年4月4日 日本経済新聞電子版)

 

記事【ソウル=甲原潤之介】

 

(1)要点「中距離弾道ミサイル「火星16」は迅速に発射できる固体燃料エンジン」

北朝鮮が3日、中距離弾道ミサイル「火星16」を2日に試射したと明らかにした。

迅速に発射できる固体燃料エンジンを使う新型弾と位置づけた。

短距離から長距離まで多様な射程のミサイルに奇襲攻撃できる能力を付与し、日米韓を威嚇する。

 

写真 北朝鮮が2日に試射した中距離弾道ミサイル「火星16」=朝鮮通信

 

固体燃料を使う中距離弾道ミサイルは1月にも発射した。

今回は金正恩(キム・ジョンウン)総書記が試射に立ち会い、「火星16」という名称も公表した。ミサイルが完成に近づいたとみられる。

 

(2)「極超音速兵器は通常マッハ5以上で複雑な軌道を飛ぶミサイル」

北朝鮮は弾頭部を極超音速兵器と説明する。

朝鮮中央通信の報道によると、ミサイルから分離した弾頭は空中で一度上昇し、方向を変えて飛行する能力を確かめたという。

予定された軌道に沿って飛行したとしている。

極超音速兵器は通常、マッハ5(音速の5倍)以上で複雑な軌道を飛ぶミサイルを指し、各国が開発を競う。

 

(3)「「全地球圏内のランダムな対象」を迅速に狙う能力を構築」

金正恩氏は今回の開発で、すべての射程のミサイルで固体燃料化が「完全無欠に実現する」と表明した。

弾頭の操縦と核兵器化も同時に進めて「全地球圏内のランダムな対象」を迅速に狙う能力を構築すると強調した。

 

 

こうした成果が「わが共和国の核戦争の抑止力向上に大きな変化をもたらす」とも宣言した。

 

(4)北朝鮮が中距離弾道ミサイルの開発を進める狙いは太平洋で活動する米軍への攻撃力を確保するためとみられる。

「火星12」など既存の中距離級は液体燃料を用いる。このクラスも固体燃料エンジンに置き換えて、迅速な攻撃力を確保しようとしている。

北朝鮮は今回、飛距離を1000キロメートル程度に抑えて撃ったと説明した。火星16の最大射程は明らかにしていない。

 

(5)公開した写真によると、今回のミサイルは片側7輪の車両で運ばれた。韓国・北韓大学院大の金東葉(キム・ドンヨプ)教授は「片側6輪だった火星12と同程度か、それ以上と予想される」と指摘した。

2022年10月に火星12の改良型とみられるミサイルを発射した際は、日本列島を通過して4600キロメートル程度飛んだ。同程度なら日本列島全域や米領グアムが射程に入る。米国のハワイやアラスカに届くミサイルとして開発している可能性もある。

 

(6)日本の防衛省は今回のミサイルの飛距離を650キロメートル、韓国軍は600キロメートル程度と分析した。

北朝鮮の主張と400キロメートルほどの差がある。金東葉氏は「韓国軍が最後の400キロメートルを探知ができなかったようだ」とみる。

 

(7)韓国軍は北朝鮮の発表について「誇張されたもの」と評価した。

途中での飛行方向変更の主張も「韓国軍の分析と違いがある」と表明した。

弾頭部が大気圏に再突入する際の熱防護能力なども「検証が必要」として、北朝鮮の技術水準を慎重に見極める。