工業用水道、老朽化深刻に 20年後、耐用年数超え7割 半導体誘致へ更新課題(24年4月3日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)要点「20年後に耐用年数40年を超える水道管が全体の7割」

(2)「2021年度は工業用水道管の耐用年数を超えた割合は48.3%」

(3)「設備更新や工事計画をふまえた試算では、43年に耐用年数超えは71.1%」

(4)「稼働率が50%を超える施設は全体の4割」

(5)「工業用水は取引先が限られるので水道事業者は企業の撤退を恐れ値上げできない」

(6)「最近、大量の水を必要とする半導体製造の国内立地が加速」

(7)「運営改善に取り組む水道事業者もある」

 

記事

 

(1)要点「20年後に耐用年数40年を超える水道管が全体の7割」

産業インフラである工業用の水道施設の老朽化が進んでいる。

経済産業省の試算でおよそ20年後に法定耐用年数の40年を超える水道管が全体の7割ほどに達する。

同省は製造時に大量の水を使う半導体工場の国内集積を狙っている。インフラ維持が課題にあがる。

 

 

 

(2)「2021年度は工業用水道管の耐用年数を超えた割合は48.3%」

総務省の集計によると、2021年度に全国の工業用水道管の法定耐用年数を超えた割合は48.3%だった。

 

(3)「設備更新や工事計画をふまえた試算では、43年に耐用年数超えは71.1%」

市町村など水道事業者による設備の更新や工事計画をふまえて経産省が試算したところ、耐用年数超えは33年に62%、43年に71.1%まで高まる。

この10年間、工業用水施設の更新などを目的とした投資額は年500億円程度で推移してきた。このペースでは老朽化に追いつかない。経産省は50年度まで年1000億円規模の更新投資が必要だと見込む。

背景には水道事業を担う市町村などの厳しい財政事情がある。

 

(4)「稼働率が50%を超える施設は全体の4割」

工業用水は高度経済成長期の水需要の高まりを受け、1950年代ごろから各地で整備が進んだ。

地下水の過剰なくみ上げによる地盤沈下を防ぎ、重要な産業インフラの一角を担ってきた。

しかし製造業の国内生産が縮小し、工業用水の需要は減少傾向にある。

稼働率が50%を超える施設は全体の4割ほどにとどまる。

 

(5)「工業用水は取引先が限られるので水道事業者は企業の撤退を恐れ値上げできない」

各水道事業者の料金収入は減少し、電気料金の高騰や工事単価の上昇などもあって、経営環境は厳しさを増している。

価格転嫁も進んでいない。経産省の調査で、これまでに供給先の企業と料金改定した回数が「ゼロ」と回答した事業者はおよそ3割に上った。「1回のみ実施」を含めても全体の半数近くを占める。料金改定できない理由として「企業との関係で困難」をあげたのが全体の3割と最も多い。

料金は事業開始時に水質や地域の需要に応じて水道事業者が設定する。

工業用水は上水道と異なって取引先が限られる。水道事業者は企業の撤退を恐れて値上げに踏み出しづらく、経営改善は進みにくい。

 

(6)「最近、大量の水を必要とする半導体製造の国内立地が加速」

ここへ来て、生産工程で大量の水を必要とする半導体製造の国内立地が加速している。

半導体受託製造の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)は熊本県に第1工場を2月に開所した。北海道では次世代半導体の量産を狙うラピダスが25年の完成をめざして工場を建設している。

政府は23年度の補正予算で工業用水など半導体拠点向けのインフラ整備に総額60億円を計上した。工業用水は事業費の3割を補助し、戦略物資として重要性の高い半導体の生産を支える。

 

(7)「運営改善に取り組む水道事業者もある」

横浜市はエネルギー消費量が多い一部の水路を自然流下の水路に統合し、事業規模の適正化を進める。

静岡県では水道事業者間で事業を統合し、運用の見直しによる維持管理費の削減に取り組む。

経産省は24年中をメドに需要動向に見合った施設の規模縮小や価格改定の推進といった水道事業者向けの指針を策定する方針だ。