不法滞在、群馬の街に影 大麻、銅線窃盗…摘発の外国人率トップ SNS通じ流入、困窮の末(24年3月31日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)要点「不法滞在者がSNSを見て集まり県内での犯罪件数が拡大再生産」

(2)「扇風機回し続けて大麻を栽培」

(3)「県内外国人が群馬の主要産業を支えてきた」

(4)「近年は治安悪化」

(5)「SNSで知り合った仲間を頼って群馬に入る不法滞在者」県警

(6)「元技能実習生が会社を辞め失踪者に」

(7)「いち早く治安悪化を防ぐため別のアプローチが必要」

 

記事

 

(1)要点「不法滞在者がSNSを見て集まり県内での犯罪件数が拡大再生産」

大麻草1000本栽培、2億円分の銅線窃盗――。外国人グループによる犯罪の摘発が群馬県で目立っている。県内の全摘発者に占める外国人の割合は1割を超え5年連続で全国トップ。

不法滞在者らがSNSを通じて集まり犯罪行為に加わる構図が浮かぶ。外国人材の受け入れ「先進県」で何が起きているのか。現場を追った。

 

(2)「扇風機回し続けて大麻を栽培」

「ブーン」。群馬県渋川市の一軒家。扇風機の音が響く部屋には鉢植えが並んでいた。葉を茂らせていたのは大麻草で、県警は2023年7月にベトナム人の16人を逮捕した。この住宅を含め6カ所で1000本超の大麻草が見つかった。

現場は閑静な住宅街の一角だ。

近隣の女性(78)は家から出てきた外国人の青年と挨拶を交わしたことがあった。「エアコンの室外機が常に動いていておかしいと感じていた。まさか大麻とは」

 

 

(3)「県内外国人が群馬の主要産業を支えてきた」

1990年代から日系人や技能実習生らを積極的に受け入れてきた群馬県。

住民の外国人割合(23年1月時点)は3.4%で、東京都(4.2%)、愛知県(3.7%)に続き3番目に高い。主要産業を支える貴重な役割を担ってきた。

 

(4)「近年は治安悪化」

23年は大麻栽培のほか、カンボジア人による太陽光発電用銅線の窃盗事件(被害総額約2億5400万円)といった組織犯罪が目を引いた。

県内の全摘発者に占める外国人の割合は、19年にそれまで全国で最も高かった東京都などを上回った。

23年は11.1%を占め、全国(4.8%)の2倍を超える。

(23年の事例)

4割は不法残留といった入管難民法違反だった。県外から流入した不法滞在者らの存在が比率を押し上げている。

 

(5)「SNSで知り合った仲間を頼って群馬に入る不法滞在者」県警

県警が呼び水の一つとみているのが同胞が集うSNSだ。

「レストラン1人、時給1250」「車はラジオ付き」。

「GUNMA」と冠するベトナム語のフェイスブックグループには、不法就労のあっせんとみられる職業紹介や違法売買が疑われる車の写真があふれる。

偽造在留カードの売買もSNSで完結する。

SNSで知り合った仲間を頼って群馬に入る不法滞在者らは、同胞が暮らすアパートに同居する傾向がある。

生活も困窮するなか、SNS上の情報に唆され集団で犯罪の道へ――。治安を脅かすいびつな構造が形成されている疑いがある。

 

(6)「元技能実習生が会社を辞め失踪者に」

一部は勤務先を失踪した元技能実習生だ。言葉の壁や過酷な労働環境を背景とする失踪者は22年に全国で約9千人。

(外国人労働者問題に詳しい神戸大の斉藤善久准教授)

「転職の自由化や支援拡充など、失踪者を生まない制度に改善しなければ根本的には解決できない」とみる。

 

(7)「いち早く治安悪化を防ぐため別のアプローチが必要」

政府は技能実習に代わる新制度「育成就労」を導入する。失踪の一因となっている転職制限を緩和するが、関連法案の成立・施行にはまだ時間がかかる。いち早く治安悪化を防ぐためには、制度改正とは違ったアプローチが必要だ。

(県警)「摘発強化と共生策の両輪で抑止を図る」

 通訳可能な人員を集中的に配置した国際・捜査支援分析課を昨春に新設した。

 外国人向けのフットサル大会や柔道教室を開き、困り事は警察に相談してもらえるような関係構築も目指す。

(群馬県警の重永達矢本部長)「不法就労者や不法滞在者に生活基盤を提供する者が県内にいる」

 来日外国人による犯罪について「背景には不法就労者や不法滞在者らを受け入れて生活基盤を提供する者がいる実態がある」とみる。

「治安対策上、考慮すべき課題として注視していかなければならない」と語る。