台湾軍、防衛戦略を転換 軍備の機動性高める ウクライナ教訓、中国軍上陸も視野に 小型艦増・無人機も導入(24年3月29日 日本経済新聞電子版)

 

記事【台北=羽田野主】

 

(1)要点「中国軍の台湾本島上陸の撃退作戦の装備も」

急速な軍拡を進める中国に対抗して台湾軍が防衛戦略の修正を進めている。中国軍の台湾本島上陸も想定し、小型で機動力のある装備や無人機などで撃退する作戦を取り入れる。山岳部の多い台湾の地の利を生かして米軍などの救援まで時間を稼ぐ狙いだ。

 

 

写真 「空母キラー」と呼ばれる小型艦の引き渡し式が開かれた(26日、台湾東部の宜蘭)=台湾総統府提供・AP

 

(2)「空母キラー」と呼ばれるステルス性対艦対空ミサイルの小型艦艇の引き渡し

「秘匿性があり、防空能力も兼ね備えた小型艦艇が完成した」。蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は26日、建造を指示していた「空母キラー」と呼ばれる艦艇の引き渡し式に出席してこう挨拶した。予定より20カ月前倒しして台湾の造船会社から海軍に移された。

中国軍のレーダーに探知されにくいステルス性を備え、対艦ミサイルと対空ミサイルを装備する小型艦で、6隻体制となる。2026年までに11隻に増やす計画だ。圧倒的な軍事力をもつ中国を機動性のある装備で抑止する狙いだ。

 

(3)台湾国防部(国防省)は23年版の「国防報告書(国防白書)」で、台湾本島の奥行きを利用した「縦深防衛」の戦略を採用すると明記した。中国軍の上陸を見越した作戦計画を盛りこんだ。

大型艦艇など重武装の中国軍に対抗して、小型艦艇のように機動性の高い装備を充実させて戦う「非対称戦」も掲げた。

 

(4)現行の戦略は上陸を阻止する

台湾軍はこれまで大型艦艇や戦闘機などで中国の侵攻を可能な限り遠方で阻止する戦略をとっていた。

 

 

重きを置いていたのは、台湾本島から離れた場所で中国軍を迎え撃つ能力の構築だ。大型艦艇や戦闘機を投入して台湾の沿海で中国軍に打撃を与え、海岸付近で全滅させる作戦だった。「縦深防衛」は重武装を重視し台湾への着上陸を断固阻止する路線からの転換といえる。

 

(5)中国の習近平(シー・ジンピン)指導部は台湾の武力統一も視野に入れ、国防費を急拡大している。24年の国防予算(中央政府分)は前年比7.2%増の1兆6655億元(およそ34兆8000億円)に膨らんだ。

台湾の防衛予算(約2兆9000億円)のおよそ12倍に相当する。台湾が中国軍と同じ規模の戦闘機や艦艇をそろえるのは不可能に近い。

 

(6)「ハイマース」や対戦車ミサイル「ジャベリン」AI搭載無人機なども

台湾軍は高機動ロケット砲システム「ハイマース」や対戦車ミサイル「ジャベリン」、人工知能(AI)を搭載した無人機などの導入を加速する。こうした小型の武器は機動性が高く、中国が張り巡らした衛星網からも捉えにくい。

 

(7)「ジャングル地帯でゲリラ戦も」

台湾本島は中央に標高3000メートル級の山脈が走っており、山岳地帯が多い。上陸した中国軍を奥地に誘い込み、包囲して打撃する作戦などを想定している。

台湾軍幹部を務めたOBは「ジャングル地帯でゲリラ戦を仕掛けて米軍を苦しめたベトナム戦争が参考になる」と指摘する。

 

(8)日本の対台湾窓口機関で勤務した元空将補、尾形誠氏は台湾軍が戦略を変更した理由として「ロシアの侵攻に善戦するウクライナの戦訓がある」と語る。

台湾軍は24年から兵役で入隊した若者にウクライナ軍が活用する「ジャベリン」や、携帯型防空ミサイル「スティンガー」の操作を学ばせている。

24年5月20日に発足する与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳政権は防衛予算の配分を巡る課題に向き合うことになる。

現状では予算の大半を戦闘機の購入や大型艦艇の建造などに割いており、予算を組み替えれば国防部の組織にもメスを入れることになる。急進的な改革は伝統的な戦力を重視する軍の現場の反発を招く可能性もある。

(9)「トランプ再選なら、高額な戦闘機や戦車で再び売り込みをかけてくる」

台湾が装備品の大半を依存する米国の出方も重要だ。

バイデン政権

 台湾に弾薬や整備用機材など戦争継続能力の向上につながる装備を中心に売却を進めてきた。

(中台関係や政策、戦略に関する研究を目的とする非営利団体、中華戦略前瞻協会の掲仲研究員)

 「11月の米大統領選でトランプ前大統領が当選すれば、高額な戦闘機や戦車で再び売り込みをかけてくるだろう」と話す。台湾軍の戦略変更の足かせになる可能性がある。