トランプ氏再選なら日本に米防衛義務要求 元米高官が言及(24年3月29日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)要点

日本は、米本土が攻撃されれば自衛隊の出動を義務付ける条約改正を迫られる――。

(3)「トランプの欠陥は日米同盟が日本だけでなく米国の安全保障も強化していることに気づかったこと」

(4)「日米安全保障条約第5条 米国が共同対処するのは日本の施政下の領域に限定」

(5)「日本は、トランプが日米安保条約改正を提案したときの反論を準備すべき」

(6)「米と同盟国との双務関係」

  1)「北大西洋条約機構(NATO)」

  2)「米韓相互防衛条約」

  3)(日本政府)米軍に基地などの施設を提供することで「双務性」があるとの立場をとる。米軍の駐留経費は日米の特別協定に基づき負担している。

(7)「米国が核を含む戦力で同盟国を守る「拡大抑止」に疑義が生じれば「日韓などから自国の核兵器が必要」との声が高まりかねないと訴えた」。

(8)「再選されたら日本の指導者は年内にトランプに会って同盟について話し合うべき」

(9)「習主席は、少しこびを売ればトランプはこちらの言いなりになると考えている」

(10)「日韓は協力して、トランプに北朝鮮との対話に慎重であるべき理由を説明すべきだ」

 

記事【ワシントン=坂口幸裕】

 

(1)要点

日本は米本土が攻撃されれば自衛隊の出動を義務付ける条約改正を迫られる――。

トランプ前米大統領のもとで大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトン氏は日本経済新聞のインタビューで、前大統領の返り咲きを想定した備えが必要だと強調した。

 

写真 ボルトン氏

 

(2)インタビューは25日にオンラインで実施した。

ボルトン氏はトランプ政権時に2018年4月から19年9月まで大統領補佐官として外交・安全保障政策を主導した。

 

(3)「トランプの欠陥は日米同盟が日本だけでなく米国の安全保障も強化していることに気づかったこと」

11月の米大統領選で共和党の候補者指名が確定した前大統領について「最大の懸念は同盟関係のあり方への認識の欠如だ」と指摘した。

日米同盟が日本だけでなく「米国の安全保障も強化していることに気づいていなかった」と断じた。

 

(4)「日米安全保障条約第5条 米国が共同対処するのは日本の施政下の領域に限定」

 米国による日本防衛の義務を定める。共同対処するのは日本の施政下の領域に限り、米本土などで日本が米国支援のため戦う義務はない。

 

(5)「日本は、トランプが日米安保条約改正を提案したときの反論を準備すべき」

ボルトン氏は「トランプが『日本にも米国を守る義務を負わせるよう条約を改正してほしい』と言うことに備えるべきだ」と唱えた。

前大統領が「日米同盟は不公平」などと主張した際、反論できるよう準備を促した。

 

(6)「米と同盟国との双務関係」

1)「北大西洋条約機構(NATO)」

 加盟国への攻撃に対し集団的自衛権の発動を義務付ける。

2)「米韓相互防衛条約」

 太平洋地域におけるいずれかへの攻撃への共同対処をうたう。

3)(日本政府)

 米軍に基地などの施設を提供することで「双務性」があるとの立場をとる。

米軍の駐留経費は日米の特別協定に基づき負担している。ボルトン氏は駐留経費の額を「トランプは適切でないと考えていた。単に不動産取引としか見ていなかった」と振り返る。

 

(7)「米国が核を含む戦力で同盟国を守る「拡大抑止」に疑義が生じれば「日韓などから自国の核兵器が必要」との声が高まりかねないと訴えた」。

(いまは、米国が核を含む戦力により同盟国を守る約束をしていることによって戦争「拡大抑止」効果があると考えられている。しかし、米国の同盟国が、米国は同盟国を守るために米国の兵力や戦力を行使しないかもしれないという不安を持てば、「日韓などから自国の核兵器が必要」との声が高まりかねないと訴えた)。

日本の核保有については「間違いだ。北東アジアをより複雑で危険な状況に導く」と表明した。

 

(8)「再選されたら日本の指導者は年内にトランプに会って同盟について話し合うべき」

仮に前大統領が再選された場合、25年1月の就任前に「日本の指導者たちは直ちにトランプと同盟のあり方について話し合う必要がある」と提起した。前大統領の就任に先立ち安倍晋三元首相が会談したことに触れた。

 

(9)「習主席は、少しこびを売ればトランプはこちらの言いなりになると考えている」

前大統領は中国製品に60%超の関税を課すと公言する。ボルトン氏は対中強硬姿勢を「長続きしないだろう。威勢がいいだけだ」と見通した。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は前大統領を「交渉が簡単な相手で、こびれば最悪の結果を避けられると考えている」と語った。

 

(10)「日韓は協力して、トランプに北朝鮮との対話に慎重であるべき理由を説明すべきだ」

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記との史上初の米朝首脳会談を「間違いだった」と回顧した。

「日韓は協力し、トランプに(北朝鮮との対話に)慎重であるべき理由を説明する必要がある」と唱えた。

 

John R. Bolton ブッシュ米政権(第43代)で国務次官や国連大使を歴任。2018年4月~19年9月に大統領補佐官(国家安全保障担当)。トランプ前大統領と対北朝鮮政策などを巡って対立し解任された。