AI技術、米が寡占 半導体・クラウドでシェア7~9割 日本勢、深まる依存 経済安保リスクに懸念(24年3月28日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)「半導体やクラウドのインフラで米国のシェアは7~9割」。過度な依存は経済安全保障上のリスクとなりかねない。

(2)「関連のビジネスを軒並み米テクノロジー企業が寡占していく構図が鮮明」

(3)「時価総額と売上高で世界一の半導体企業となった米エヌビディア」

  生成AIの技術は大きく4つの階層に分かれる。 

  1)消費者に近い応用段階のアプリケーション

  2)生成AIの中核となる大規模言語モデルなどの基盤技術

  3)多様なサービスを支えるクラウドインフラ

  4)開発や運用に欠かせない半導体――だ。

  下層ほどプレーヤーの企業数は少ない傾向

(4)「大量の演算を並列してこなすGPU(画像処理半導体)が不可欠」

(5)「米国メタは24年にエヌビディアの高性能GPU「H100」を35万基導入」

(6)「クラウドのインフラも米国勢でシェアは7割超」

(7)「デジタルトランスフォーメーション(DX)が進むほど米企業に富が流れ込む」

(8)「大規模言語モデルなど生成AIの基盤技術やサービスの階層 米テック大手が市場の8割以上」

(9)「消費者に近いアプリケーション」

(11)「中国は「AIの能力構築における国際協力強化」を主張」

(12)「日本は省エネ性能を特徴とする大規模言語モデルの開発」

 

記事

 

(1)「半導体やクラウドのインフラで米国のシェアは7~9割」

国益に直結する革新的なテクノロジーとなった生成AI(人工知能)関連ビジネスで「米国1強」の構図が強まってきた。

AIの開発や運用に不可欠な半導体やクラウドのインフラで米主要企業のシェアは7~9割を占める。日本でも米国発の技術やサービスの導入が広がるが、過度な依存は経済安全保障上のリスクとなりかねない。

 

(2)「関連のビジネスを軒並み米テクノロジー企業が寡占していく構図が鮮明」

生成AI関連のビジネスは2022年に「Chat(チャット)GPT」が登場して以降、急速に広がっている。独スタティスタによると、世界市場は年平均約2割のペースで成長し、30年には2070億ドル(約30兆円)に達する見通しだ。

市場で圧倒的な存在感を放つのが米国だ。

米国の23年時点の市場は161億ドルと2位の中国の3倍にのぼる。30年には650億ドル超に達し、一国で世界の3分の1を占めるとみられる。

関連のビジネスを軒並み米テクノロジー企業が寡占していく構図が鮮明だ。

 

図 生成AIのビジネスは主に4つの階層に分かれる

   アプリケーション

   基盤技術(大規模言語モデルなど)

   クラウドのインフラ

   ハードウエア(半導体)

(下の階層ほど参入企業数が少ない)

 

 

 

(3)「時価総額と売上高で世界一の半導体企業となった米エヌビディア」

生成AIの技術は大きく4つの階層に分かれる。

 1)消費者に近い応用段階のアプリケーション

 2)生成AIの中核となる大規模言語モデルなどの基盤技術

 3)多様なサービスを支えるクラウドインフラ

 4)開発や運用に欠かせない半導体――だ。

下層ほどプレーヤーの企業数は少ない傾向があり、成長市場から生まれる利益を最大限に取り込んでいる。その象徴が時価総額と売上高で世界一の半導体企業となった米エヌビディアだ。

 

GPUは「1強」

 

(4)「大量の演算を並列してこなすGPU(画像処理半導体)が不可欠」

AIがデータを学び、推論するための計算能力はデータセンター内のサーバーが供給している。膨大な計算が必要となり、大量の演算を並列してこなすGPU(画像処理半導体)がAIの精度向上には不可欠だ。

 

 

 

(調査会社IoTアナリティクス)

 エヌビディアはデータセンター向けのGPUで92%のシェアを持つ。競合の米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)は3%で、エヌビディアが「1強」の地位を築いている。

「エヌビディアの強さの源泉」

半導体そのものの性能に加え、「ソフト」にもある。

06年に公開した開発基盤「CUDA」はAI開発の初期から用いられ、400万人超の開発者らにとって手放せない存在となっている。

 

(5)「米国メタは24年にエヌビディアの高性能GPU「H100」を35万基導入」

米国勢はGPUの「買い手」としての存在感も際立つ。

メタ

 生成AIの開発で先頭集団の一角を占める米メタ。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「大規模なインフラを構築している」と語り、24年中にエヌビディアの高性能GPU「H100」を35万基導入する方針を示す。

日本の企業などがGPUを大規模に調達する場合、数百~数千基単位が一般的だ。巨大テック企業は桁違いの数を購入している。

 

 

 

(6)「クラウドのインフラも米国勢でシェアは7割超」

半導体の一段上の階層で多様なAI関連サービスを支えるクラウドのインフラも、米国勢が市場を押さえる。

3強で世界の3分の2を占める

 アマゾン・ドット・コム、

 マイクロソフト、

 グーグル。

IBMやオラクルを含めた米国勢のシェアは7割超にのぼる。

 

(7)AIによるデジタルトランスフォーメーション(DX)が進むほど米企業に富が流れ込むようになっている。

 

(8)「大規模言語モデルなど生成AIの基盤技術やサービスの階層 米テック大手が市場の8割以上」

ここも構図は重なる。

 チャットGPTを開発した米オープンAIと、

 同社と提携するマイクロソフトの連合が強い。

 アマゾン、

 グーグル

を含めると米テック大手が市場の8割以上を占める。

 

(9)「消費者に近いアプリケーション」

多種多様で単純に競合状況を比較するのは難しい。

(23年11月時点のスタティスタのデータ)

 最も基本的な文章生成ツールの利用者シェアではチャットGPTが72%を占めた。画像生成ツールも米国発の「ミッドジャーニー」が53%にのぼる。

 

(10)AIは生産性向上や事業成長のカギを握る。米マッキンゼー・アンド・カンパニーが推計した生成AIが生み出す経済的価値は、世界で年間2.6兆~4.4兆ドルにも及ぶ。英国の国内総生産(GDP)が3兆ドル強であることを考えると、影響力は大きい。

 

中国はけん制

 

(11)「中国は「AIの能力構築における国際協力強化」を主張」

米国が主導するAIの進化と技術の囲い込みをけん制する動きも強まる。

「すべての関係者の間で技術の共有を促進し、どの国も後れをとることなくギャップを埋めるよう努力する」――。中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相は3月7日の記者会見でAIに関する質問に対してこう答え、「適当な時期」に国連総会に「AIの能力構築における国際協力の強化」に関する決議案を提出する考えを明らかにした。

 

(12)「日本は省エネ性能を特徴とする大規模言語モデルの開発」

日本企業の間でも導入が加速するが、多くの技術の供給元は米企業だ。突然の仕様変更のリスクやセキュリティー確保の重要性の観点から、同盟国とはいえ米国への過度な依存に懸念が強い。

現在の生成AIは課題も多い。国際エネルギー機関(IEA)によると、チャットGPTの対話では一般的なグーグル検索に比べて1回あたり約10倍の電力量を消費する。

こうした課題を踏まえ、NTTやNECは省エネ性能を特徴とする大規模言語モデルの提供に乗り出した。グーグル出身の著名AI研究者らが日本で創業したサカナAI(東京・港)はより効率的に高度なAIを開発する手法の実現に挑み、日本発の革新にも期待がかかる。

 

電子版ではビジュアルデータ「解剖 経済安保 沸騰AI 米国が寡占する未来」をご覧いただけます。