安倍派幹部を首相が聴取 「非公認」軸に処分へ調整 還流継続判断関与の4人 22年3月にも協議(24年3月27日 日本経済新聞電子版)

 

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(1)要点「安倍派落城の外堀を埋める」

岸田文雄首相(自民党総裁)は26日、派閥の政治資金問題を巡り安倍派幹部の聴取を始めた。聴取を踏まえて4月第1週にも処分を決める。首相自身が聞き取り役を担い、安倍派の還流継続を決めた場にいた同派幹部の処分に向けて外堀を埋める。

首相による聴取は都内のホテルで実施し、茂木敏充幹事長と森山裕総務会長が同席した。

 

 

27日まで続ける方針で、26日はまず座長の塩谷立氏、事務総長経験者の下村博文氏から個別に聴取した。首相は首相官邸で記者団に「いまの段階で内容などについて申し上げることはできない」と語った。

事務総長を務めた西村康稔氏、参院安倍派会長だった世耕弘成氏も対象になる。

 

(2)この4氏は2022年8月、安倍派のパーティー収入の還流継続の対応を協議したメンバーだ。安倍晋三元首相が同年4月に廃止を指示しながらも還流を続ける判断に関与した。

塩谷氏は衆院政治倫理審査会で「(還流廃止で)困っている人がたくさんいるからしょうがない。そのぐらいの話し合いで継続になった」と説明した。

ほかの3氏は衆参の政倫審で「結論が出なかった」などと述べた。

 

(3)聴取ではこの会合の内容を聞き取った。22年3月にも幹部で協議したことがわかり、事実関係をただした。参院政倫審で世耕氏はこの会合の存在を問われて「残念ながら私のスケジュール表にも、私の記憶にも残っていない」と説明していた。

食い違いは残るものの、党執行部は還流を止められる立場にありながら対処しなかった責任は重いとみる。

8段階ある党の処分で4番目に重い「選挙での非公認」を軸に、3番目の党員資格の停止も検討する。

 

 

(4)党内には4氏に厳しい処分を求める声や自発的に責任を取るよう促す意見が広がる。

二階俊博元幹事長が25日に次の衆院選に出馬しない意向を表明したのも4氏への風圧が強まる一因となる。

二階氏が会長だった二階派は元会計責任者が立件された。二階氏自身にも不記載があり秘書が有罪判決を受けた。二階氏は政治責任として不出馬の決断をした。党内からは「安倍派幹部も自ら責任を取るべきだ」との声が上がる。

 

 

 

(5)安倍派の有力者「5人衆」のメンバーだった松野博一前官房長官、高木毅前国会対策委員長、萩生田光一前政調会長の扱いも焦点になる。この3氏は22年8月の協議には参加しておらず、塩谷氏ら4氏より軽い処分になる可能性がある。

 

(6)自民党調査によると18~22年に政治資金収支報告書への不記載があったのは85人だ。執行部内には、責任の重さや不記載の額、説明責任の果たし方などを勘案しながら

 (1)選挙での非公認

 (2)党の役職停止

 (3)戒告――

の3つの分類で処分する案が浮上する。

 

(7)首相自身や二階氏の処分も論点に挙がる。渡海紀三朗政調会長は26日、国会内で記者団に「二階氏の決断は非常に重く、当然考慮されるべきだ」と語った。二階氏は自ら衆院選不出馬を表明して責任を取ったため「処分は不要だ」との意見が出ている。

首相が率いてきた岸田派も元会計責任者が立件された。派閥のトップだったことの責任を問う声は根強い一方、首相は自らの処分に慎重だ。

安倍派とは異なり、議員側への資金還流がなかったため「派閥全体での還付の不記載とは全く次元が違う」と主張する。

 

(8)近く処分の結論が出るが、いま浮上している処分案で世論の理解を得られるかは微妙だ。

新型コロナウイルスの緊急事態宣言中に東京・銀座のクラブを訪れた自民党議員は離党勧告の処分となった。政治資金規正法が義務付ける政治資金収支報告書への適切な記載をしなかった今回の事案は、より重い処分が必要との見方がある。