コラム:外国投資家が促した日本企業の変革、国内ファンドにバトンタッチ(24年3月25日 ロイター日本語電子版無料版)

 

記事の概要

(1)要点

日本企業は、稼ぐ力と意思決定力への信頼を取り戻すのに35年を要した。

日経平均株価が1989年の高値を更新したことに、その信頼感は表れている。

(2)「日本は長らく、外国のファンドや投資家を冷たくあしらってきた」

(3)「外国人による「日本株式会社」への襲来が失敗するとバブル崩壊時に日本株売却が」

(4)「最近はバフェットはじめ外国人投資家が日本企業に投資を再開」

(5)「日本の隠れた価値を見つけようとする海外ファンドの熱意が再び高まっている」

(6)「日本でも外国の「物言う投資家」の戦術が徐々に根付いてきた」

(7)「目を見張るような変化は外部取締役の比率が劇的に高まったことだ」

(8)「最近の日本企業は資本コストを意識し、株価純資産倍率1倍割れ脱却を求められている」

(9)「米国では1980年代に投資家が企業買収を仕掛けガバナンスや資本効率も改善した」

(10)「TOPIX構成企業の1株当たり利益は急速に伸び利益率も世界水準になろう」

(11)「日本のヘッジファンドのアクティビスト活動が変革を主導していくだろう」

 

記事[ニューヨーク/ムンバイ 21日 ロイター BREAKINGVIEWS (Jeffrey Goldfarb、Una Galani)] - 

 

(1)要点

日本企業は、稼ぐ力と意思決定力への信頼を取り戻すのに35年を要した。

日経平均株価が1989年の高値を更新したことに、その信頼感は表れている。

著名投資家率ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ、バリューアクト・キャピタル、エリオット・マネジメントという米国の投資家3社による日本企業投資を見れば、痛みを伴う構造改革の成果は明らかだ。

さらに重要なのは、国内のファンドマネジャーがこうした流れを持続して行きそうなことだ。

 

(2)「日本は長らく、外国のファンドや投資家を冷たくあしらってきた」

日本株の時価総額が世界全体の約半分を占め、日本の投資家がロックフェラー・センターなど米国の資産を買い占めていたころ、小糸製作所の株式取得に乗り出した米著名投資家ブーン・ピケンズ氏の事例が象徴的だ。

同氏は株式26%を取得し、取締役の送り込みや、小糸の大株主トヨタ自動車に対する特別待遇に関する情報開示を要求。外国人による「日本株式会社」への襲来は、これが最初だった。

 

(3)「外国人による「日本株式会社」への襲来が失敗するとバブル崩壊時に日本株売却が」

しかしピケンズ氏は門前払いを食らった。

年次株主総会から放り出され、小糸の幹部らは彼の要求を一笑に付した。日本株バブルが崩壊した後の1991年、ピケンズ氏は小糸株を売却する。

 

(4)「最近はバフェットはじめ外国人投資家が日本企業に投資を再開」

オリンパは2019年(訂正)、バリューアクトから取締役を迎え入れ、バリューアクトはその後7度にわたる追加投資を行った。

エリオットはソフトバンクグループに改革を迫ってからの4年間で、日本に少なくとも40億ドルを投資した。

バフェット氏は日本の商社に貴重なお墨付きを与え、バークシャーは昨年末に5大商社株を190億ドル相当買い増した。

 

(5)「日本の隠れた価値を見つけようとする海外ファンドの熱意が再び高まっている」

これら3社の成功は、日本の隠れた価値を見つけようとする熱意が再び高まっていることの表れだ。

日本人投資家、村上世彰氏らの努力がその土台となった。日本企業は旧態依然とした取締役会を改革し、積み上がった内部留保を解き放って収益性を上げる潜在性を秘めていたが、それは長年にわたり実現しなかった。

だが安倍晋三元首相が2012年に放った「三本の矢」の1本はコーポレートガバナンス(企業統治)改革に向けられており、希望が芽生えた。

 

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(6)「日本でも外国の「物言う投資家」の戦術が徐々に根付いてきた」

最近潮目が変わったのは、外国人投資家が日本国内のファンドと土台を共有できたからこそだ。

日本のポートフォリオマネジャーは、議決権行使において企業への不満を表明するようになり、自主的な反対活動も行うようになった。外国のアクティビスト(物言う投資家)とその戦術が、欧米と同様に徐々に根付いてきた形だ。

 

(7)「目を見張るような変化は外部取締役の比率が劇的に高まったことだ」

取締役改革が広がった結果、外部取締役の比率は劇的に高まった。

キヤノンでは昨年、米ブラックロック など影響力のある株主が御手洗冨士夫・会長兼社長CEO(最高経営責任者)の取締役再任に反対票を投じ、賛成率が51%を切る事態になった。

京セラも、議決権行使助言会社ISSがKDDI株の保有を問題視した際、トップが同じような抵抗に遭った。

日本企業の株式持ち合いは弱まっている。キヤノンも京セラも、外国人投資家から表立った圧力を受けたわけではなかった。

 

(8)「最近の日本企業は資本コストを意識し、株価純資産倍率1倍割れ脱却を求められている」

投資会社キャピタル・グループによると、日本企業のPBRは欧米企業に大きく遅れを取っている。

東京証券取引所は昨年10月、PBRが1倍を超えている企業であっても、さらなる向上を目指すべきだとした。

これは2008年当時とは様変わりだ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、当時の経産省幹部は株主のことを「間抜け、強欲、不義、無責任かつ脅威」だと述べた。

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(9)「米国では1980年代に投資家が企業買収を仕掛けガバナンスや資本効率も改善した」

米国の例を参考とするなら、日本株式会社は大きく改善するはずだ。

ヘンリー・クラビス氏やピケンズ氏のような投資家が1980年代、米企業に次々と買収を仕掛ける前には、多くの米企業が、安倍政権以前の日本企業と同じくらいガバナンスも資本コストもバランスシートもお粗末だった。

 

(10)「TOPIX構成企業の1株当たり利益は急速に伸び利益率も世界水準になろう」

ゴールドマン・サックのアナリストらは今、TOPIX構成企業の1株当たり利益が2025年にかけて米国、欧州、アジアの主要株価指数構成企業よりも急スピードで伸びると予想している。

日本企業は、利益率も他の地域に追い付く余地が大いにある。

 

(11)「日本のヘッジファンドのアクティビスト活動が変革を主導していくだろう」

その上、投資銀行ラザードによると、2023年に過去最高を記録したアクティビスト活動において、日本のヘッジファンドは約3分の2を占め、それ以前の5年間の約半分から拡大した。

外国人投資家はチャンスを照らしてくれたが、変革を主導していくのは国内勢になりそうだ。

 

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)