中国軍、対インド包囲網 モルディブやスリランカと 代表団を派遣、背景に国境紛争(24年3月20日 日本経済新聞電子版)

 

記事【北京=田島如生、ニューデリー=岩城聡】

 

(1)中国軍はモルディブ、スリランカ、ネパールと連携を深める。

3カ国は全てインドの隣国で、中国との関係が良好だ。中国には国境紛争を抱えるインドをけん制する思惑がある。

 

写真 中国の習近平国家主席(左)とモルディブのムイズ大統領は1月に会談した(北京)=ロイター

 

中国軍は4~13日に防衛協力の代表団を派遣した。中国国防省によると、軍代表団はモルディブのムイズ大統領と面会したほか、3カ国の国防部門とそれぞれ協議した。2国間の防衛協力に加え、共通の関心事である地域の安全保障情勢を話し合った。

 

 

 

(2)中国はインドが軍事的に台頭し、米国や日本との安全保障協力を強めているのを警戒する。

インドを取り囲むように位置する3カ国の地政学上の重要性は高い。

 

(3)モルディブ「中国から無償軍事援助受け取る 災害派遣のインド軍に撤退を要求」

なかでも急接近しているのがインド洋の島国モルディブだ。

同国は4日、中国と軍事援助に関する協定を結んだと発表した。

モルディブ国防省は「中国がモルディブに無償で軍事援助を提供する協定に調印し、2国間関係を強化した」と説明する。

その半面で、災害派遣などのためにモルディブ内に駐留しているインド軍には即時撤退するよう求めてきた。5月10日までの完了を目指す。

2023年11月に大統領に就任したムイズ氏は「反インド主義」を掲げ、最初の公式外国訪問先に中国を選んだ。

 

(4)ネパール

 中国と友好関係にある。22年に就任したダハル首相は、親中派のネパール共産党毛沢東主義派(毛派)に属する。

中国の広域経済圏構想「一帯一路」に協力し、国内のインフラ整備を進めてきた。新型コロナウイルスの感染拡大で観光業が打撃を受けると、経済の対中依存度がいっそう高まった。

ネパールは「非同盟中立」を国是とし、インドが長年にわたり経済支援してきた。ところが近年は中国傾斜が目立つ。

 

(5)スリランカ

 同じく観光業の低迷で22年にデフォルト(債務不履行)状態に陥ったスリランカの最大の債権国は中国だ。23年末時点の債務残高373億ドル(約5兆5千億円)のうち、中国が47億ドルを占める。

スリランカは17年に南部ハンバントタ港の99年間に及ぶ運営権を中国に譲渡した。

過剰な債務を負わせて重要インフラの使用権を中国が握る「債務のワナ」にはまったとの指摘がある。

 

(6)中印は20年6月に国境紛争地で軍事衝突して以降、関係悪化が続く。

両国の首脳は23年8月、ブラジルやロシア、南アフリカを交えたBRICS首脳会議で顔を合わせたものの、立ち話をしただけだった。

 

(7)インド

 中国を抑止するための取り組みを広げている。23年には米国から無人機を調達し、戦闘機エンジンを米印企業がインドで共同生産することに合意した。

日本との安保協力にも前向きだ。

ジャイシャンカル外相は今年3月、日本経済新聞との会見で日印が防衛技術の移転や共同開発を巡る協力を加速すべきだと強調した。