日本の最低賃金、世界に見劣り 正社員の45%どまり 欧州は6割目安に上げ 米国は物価連動制増加(24年3月19日 日本経済新聞電子版)

 

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経済協力開発機構(OECD)のデータから内閣府が各国の最低賃金を比べたところ、日本の低さが顕著となった。

2022年の正社員ら一般労働者の賃金中央値に対する最低賃金の比率は日本が45.6%と主要国を下回った。賃上げ機運を維持するには最低賃金による底上げも重要になる。

 

 

 

連合が15日発表した24年の春季労使交渉の1次集計で賃上げ率は平均5.28%だった。過去の最終集計と比較すると5.66%だった1991年以来、33年ぶりの高水準となった。

賃上げの波が波及するには、最低賃金に近い水準で働くパートタイムなど非正規労働者の動向がカギを握る。

 

最低賃金を上げた際にその水準を下回る労働者の割合は22年度に19.2%と、10年前に比べ10ポイント以上高まった。パートタイム労働者が増加傾向にあるためだ。

 

内閣府の23年末の分析によると、

「一般労働者の賃金中央値に対する22年の最低賃金の比率」

 フランスと韓国が60.9%、英国は58.0%、ドイツは52.6%だった。このデータは国際的に最低賃金の妥当性を確かめるために使われる。

 

欧州連合(EU)は22年10月に「最低賃金指令」を採択し、加盟国が最低賃金を引き上げる際の目安として同水準で60%を目指すと決めた。英国も24年までに賃金中央値の3分の2まで最低賃金を引き上げる方針を掲げた。

 

日本の最低賃金は厚生労働省の審議会などの議論を経て決まる。これまで段階的に上げてきており、12年の38.3%から22年に45.6%まで上昇した。

 

連合は23年12月に公表した最低賃金の中期的な目標として、EU指令を参考に「賃金中央値の6割水準を目指し、段階的に取り組む」と明記した。政府は30年代半ばに全国加重平均で1500円を実現することを目指す。

 

■EU最低賃金指令 国会図書館調査及び立法考査局

要旨

 2022 年 10 月 19 日、「EU における十分な最低賃金に関する欧州議会及び理事会指令」 が制定され、同年 11 月 14 日に施行された。同指令は、EU の労働者の生活及び労働の条 件向上を図ることを目的とし、法律等により最低賃金を定めている加盟国に対し、

 明確な 基準(人間らしく生きられる(decent)生活水準に到達することや

 ワーキングプアの減少 等を目的とした基準)

に基づく法定最低賃金の設定を義務付けるものである。

他方、最低 賃金を労働協約により定めている加盟国等に配慮して、団体交渉を促進する規定及び最低 賃金による労働者保護を促進する規定も含めている。

加盟国は、この指令の範囲に含まれ る権利及び義務が国内法又は労働協約に規定されている場合、その侵害に適用できる罰則 を定めなければならない。加盟国は、2024 年 11 月 15 日までに最低賃金指令を国内法化 することが求められる。

 

■EU最低賃金指令 独立行政法人労働政策研究・研修機構 2022年10月

 

各国の慣行を尊重

適正な最低賃金に関する指令(注1)は、欧州委員会が2020年に案を公表していたものだ。欧州委は、域内の多くの労働者が最低賃金制度による保護を受けていないか、制度があっても設定額が低い傾向にある(図表)として、適切な水準の最低賃金額の設定と、労働者が労働協約や法定最低賃金による保護を受け易くするための枠組みの構築を、指令案の目的に掲げていた。複数の加盟国においては、最低賃金制度ではなく労働協約によって最低基準の設定が行われており(注2)、高い協約適用率を背景に、低賃金労働者が少なく、最低基準の水準も高い傾向にあるとされる。欧州委は、各国で構築された制度や慣行に反して法定最低賃金の導入や労働協約の全般的な適用を義務付けるものではない、としている。

図表:各国の最低賃金月額の水準(2022年下期、ユーロ)

出所:Eurostat

労使交渉を通じた賃金決定を重視

指令はまず、労使交渉(注3)を通じた賃金決定を重視する方針を明確に示している(4条)。各国に対して、業種別または業種横断的な労使交渉による賃金決定に関する労使の交渉能力の構築と強化とともに、建設的で意義のある、情報に基づいた労使間の賃金交渉を促すことを求めている。

また、労働協約の適用率が労働者の80%(注4)を下回る加盟国については、労使団体と協議の上、労使交渉の実施に関する環境整備を法的あるいは労使協定により行うこと、またこのためのアクションプランを作成することが併せて求められる。

アクションプランには明確なスケジュールを盛り込むことのほか、最低でも5年ごとの定期的な見直しの実施が義務付けられ、また作成・改定の都度、これを公表するとともに欧州委に通知しなければならない。

賃金の中央値の60%などを目安に

指令における「最低賃金」(minimum wage)は、法定最低賃金と、労働協約により設定される最低基準の双方を指す(3条)が、主な内容は法定最低賃金に関するものだ。法定最低賃金制度を有する加盟国は、最低賃金額の設定・改定手続きの確立とともに、適切な水準への設定・改定のための基準を設定しなければならない(5条)。

基準は、各国の慣行(法定、専門機関による決定あるいは三者合意など)に基づいて設定することができるが、少なくとも、

 a)最賃額の購買力(生活費を考慮)、

 b)一般的な賃金水準や分配の状況、

 c)賃金上昇率、

 d)長期的な生産性の水準・動向、

の各要素を含まなければならない。

このほか、物価による自動調整メカニズムを併用することも可能だ(適用すると額が減少する場合を除く)。

また、各国には適正さを評価するための目安となる額を設定することが求められる。

指令は、使用可能な指標として、統計上の税引き前賃金の中央値の60%、平均値の50%、その他各国で使用している目安となる額などを挙げている(注5)

各国は、少なくとも2年に1度(物価連動型を採用している場合は4年に1度)の最低賃金額の改定のほか、制度を所管する組織に対して各種の提言を行う専門機関を設置することが求められる。加えて、異なるグループ毎の最低賃金額の設定や、一部の労働者に減額を適用する場合、それらが差別的でないことや、目的に照らして相応でなければならない(6条)。