Apple、生成AI人材に年4500万円の基本給 強まる危機感(24年3月18日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)要点

米アップルが1)生成AI(人工知能)分野で巻き返しに動いている。2)2024年内に具体的なサービスを発表すると予告し、3)専門人材には年4500万円近い基本給を提示して獲得に力を入れる。4)同社は、生成AIに最適化した新端末の登場などでこれまでの慎重姿勢を一変させた。

(2)「アップルは開発中のプロジェクトについてコメントすることはめったにない」

(3)「具体的な戦略は6月の開発者会議「WWDC」で公表か」

(4)「23年春ごろから採用ウェブサイトで生成AIの技術者らを募集」

(5)「文章や画像や音声、動画のデータを扱う「マルチモーダル」技術者は基本給2550万~約4500万円で引き抜き」

(6)「サムスン電子は会話の同時翻訳、グーグルPixelはスマホにAI半導体を搭載」

(7)「生成AI対応のスマホ機種の割合は24年の8%から27年までに40%に」

(8)「対話型AIは音声による操作に適しディスプレーやタッチパネルに取って代わる」

(9)「米オープンAIのアルトマンCEOは米新興企業に出資やアップルと提携も」

(10)「アップルはジョブズのiPhoneを刷新する機能を付加できるか」

(11)「アップルCEOは2023年には生成AIに慎重な姿勢だった」

(12)「ほかのテクノロジー大手は雪崩を打つように生成AI分野に経営資源を集中」

(13)「スマホでは出遅れたがアプリ配信を軸にした経済圏モデルで一気に市場を席巻した」

(14)「アップル消費者の、サービスや製品に対する高い完成度と革新性の期待に応えられるか」

 

写真 アップルのクックCEOは23年まで生成AIの活用に慎重姿勢を示していた(2022年9月、米カリフォルニア州の本社で)

記事

 

(1)要点

米アップルが

1)生成AI(人工知能)分野で巻き返しに動いている。

2)2024年内に具体的なサービスを発表すると予告し、

3)専門人材には年4500万円近い基本給を提示して獲得に力を入れる。

4)同社は、生成AIに最適化した新端末の登場などでこれまでの慎重姿勢を一変させた。

「生成AIを使い、生産性や課題解決において変革の機会を提供できるだろう。年内に発表できることを楽しみにしている」。

アップルが2月28日に開いた株主総会。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は将来の製品・サービスの発表スケジュールに自ら言及した。

 

(2)「アップルは開発中のプロジェクトについてコメントすることはめったにない」

アップルは厳格な秘密主義で知られ、開発中のプロジェクトについてコメントすることはめったにない。

それにもかかわらずクック氏は「生成AIは未来を定義する。アップルも多額の投資をしている」と述べ、生成AI分野に積極的に取り組む姿勢を強調した。

 

(3)「具体的な戦略は6月の開発者会議「WWDC」で公表か」

アップルが具体的な戦略を発表する舞台は、例年6月に開く開発者会議「WWDC」になるとみられている。

米メディアでは早くも新サービスをめぐる予想が盛んだ。

(米ブルームバーグ通信など)

  1)音楽配信サービスでおすすめの再生リストを作成したり、

  2)プレゼンテーションアプリで資料を自動で書き上げたり

する機能を予想している。

サムスンは同時通訳機能を搭載

 

(4)「23年春ごろから採用ウェブサイトで生成AIの技術者らを募集」

「危機感はかなり強い」。アップル関係者は生成AIを巡る社内の雰囲気をこう説明する。「チャットボット(自動応答システム)を出すだけでは後手に回っている印象を与えてしまう。いろいろと知恵を絞っているところだ」と話す。

「生成AIが何十億ものモバイルプラットフォームで動くことを想像してみてください」。アップルは23年春ごろから自社の採用ウェブサイトでAIの技術者らを募集している。

「生成AI」をキーワードに含む募集職種は米国内の拠点だけで600を超える。

 

(5)「文章や画像や音声、動画のデータを扱う「マルチモーダル」技術者は基本給2550万~約4500万円で引き抜き」

生成AIの開発企業の間では、文章に加えて画像や音声、動画など様々な形式のデータを扱う「マルチモーダル」と呼ぶ技術への注目が高まっている。

アップルはこの分野に詳しい技術者には、例えば年17万~30万ドル(約2550万~約4500万円)の基本給を提示し、ライバルからの引き抜きに力を入れる。

 

(6)「サムスン電子は会話の同時翻訳、グーグルPixelはスマホにAI半導体を搭載」

「Chat(チャット)GPT」が火を付けた生成AIブームの波は、アップルが最大の収益源とするスマホ市場にも押し寄せている。

(韓国サムスン電子)

 同社と世界シェア首位の座を争う韓国サムスン電子は1月、通話中の会話を同時に翻訳する機能を搭載した新型スマホ「ギャラクシーS24」シリーズを米国などで発売した。

 

(米グーグル)

 「Pixel(ピクセル)」のブランド名で手がけるスマホに、サーバーではなく端末側でAIのプログラムを処理できる独自半導体を搭載した。

カメラで撮影した写真に写っていない要素を自動で生成するなど、AIが複雑な画像処理をこなす「マジックエディター」と呼ぶ機能を提供している。

 

(7)「生成AI対応のスマホ機種の割合は24年の8%から27年までに40%に」

スマホ市場が成熟するなか、生成AIに最適化した機種は需要喚起の起爆剤として期待を集める。(香港の調査会社カウンターポイント)

 スマホ市場全体に占める生成AI対応機種の割合は24年の8%から27年までに40%に高まり、出荷台数は年間5億台を突破すると予測する。

 

アルトマン氏もデバイス領域に関心

 

(8)「対話型AIは音声による操作に適しディスプレーやタッチパネルに取って代わる」

生成AIはモバイル端末の姿を一変させる可能性もある。チャットGPTなどの対話型AIは音声による操作に適しており、従来のスマホでユーザーインターフェース(UI)の中核を担ってきたディスプレーやタッチパネルの役割は低下するためだ。

 

(9)「米オープンAIのアルトマンCEOは米新興企業に出資やアップルと提携も」

1)米オープンAIのサム・アルトマンCEOらが出資する米新興企業ヒューメインは23年11月、ピンマイクのように胸元に着けるウエアラブル端末「Ai Pin」を発表した。声や手の動きによって生成AIに指示を出し、通話したり情報を検索したりできる。

2)アルトマン氏はアップルの元最高デザイン責任者(CDO)のジョナサン・アイブ氏と、生成AIとの対話に最適化した端末の開発を話し合っているとも報じられている。両者は新会社の立ち上げに向け、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長に支援を求めたとされる。

 

(10)「アップルはジョブズのiPhoneを刷新する機能を付加できるか」

生成AIがもたらすディスラプション(創造的破壊)をチャンスと捉え、モバイル端末の分野でも新たなプレーヤーがうごめき始めた。

アップルは創業者のスティーブ・ジョブズ氏が生み出したiPhoneを刷新するような機能で対抗できるか。技術革新の底力が問われている。

 

慎重姿勢、株価下落で一変

 

(11)「アップルCEOは2023年には生成AIに慎重な姿勢だった」

「人工知能(AI)の活用には、整理しなければならない問題がたくさんある。慎重かつ思慮深くあることが重要だ」。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は2023年は生成AIに関する質問にこう繰り返してきた。

アップルはプライバシーを「基本的人権」と位置づけ、あらゆる製品やサービスに個人データを保護する仕組みを取り入れている。学習データの収集方法などを巡って不透明感が残る生成AIの利用には、一貫して慎重な姿勢を示してきた。

 

(12)「ほかのテクノロジー大手は雪崩を打つように生成AI分野に経営資源を集中」

一方、テクノロジー大手は雪崩を打つように生成AI分野に経営資源を集中させている。

米オープンAIと提携する米マイクロソフトは業務ソフトにAIを使った支援機能を組み込み、収益化でも先行する。

 

(13)「スマホでは出遅れたがアプリ配信を軸にした経済圏モデルで一気に市場を席巻した」

新ビジネスモデルで先行企業を市場からはじき出すのはアップルの得意芸」

生成AI分野に出遅れたアップルは1月に時価総額でマイクロソフトに逆転を許した。

足元の株価は年初来で7%下落して推移する。クック氏が2月の株主総会などで従来の姿勢を一変させた背景には、株主らの動揺を鎮める狙いがあったとみられる。

後発でありながら、新たなビジネスモデルを打ち立てて先行企業を市場からはじき出す手法はアップルの得意芸だ。

07年発売の「iPhone」でもスマートフォン参入はライバルに10年以上遅れたものの、アプリ配信を軸とするエコシステム(経済圏)を構築して一気に市場を席巻した。

 

(14)「アップル消費者の、サービスや製品に対する高い完成度と革新性の期待に応えられるか」

生成AIに関しても技術の成熟を待っていた側面がある。その分、消費者はアップルのサービスや製品には高い完成度と革新性を求める。クック氏が予告した発表内容がライバルの後追いにとどまるようであれば、株式市場の失望売りを招く恐れがある。

(シリコンバレー=中藤玲)

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