戦闘機論争、自公連立に限界 首相「輸出歯止め」表明 安保協力の選択肢狭める(24年3月14日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)要点「公明党の要求で他国との安全保障協力の選択肢を狭めることに」

(2)「激変する国際情勢を前に足並みをそろえきれない姿に自公連立の限界」

(3)「戦闘機輸出の決定前の与党協議で公明党の意向が確保されるようにしたい」

(4)「第三国に輸出できなければコスト引き下げできないから、各国は共同開発で日本外し」

(5)「無人化システムやサイバー、宇宙、電磁波などでの共同開発に参加できなくなる」

(6)「装備品の大半は米国から米政府の「言い値」での購入ということの反省」

(7)「米国が内向きになれば日本は欧州や韓国、オーストラリア、インドなどと安保協力」

(8)「海外派遣や集団的自衛権の行使の一部容認に対し公明党が反対」

(9)「自公政権が国際環境の変化について行けないなら連立政権の枠組みも限界」

記事

 

(1)要点「公明党の要求で他国との安全保障協力の選択肢を狭めることに」

日英伊3カ国が共同開発・生産する次期戦闘機を巡り岸田文雄首相が公明党の求める輸出の「歯止め」措置を表明した。第三国輸出は次期戦闘機に限って認める。

共同開発への道筋はついたものの、他国との安全保障協力の選択肢を狭める恐れがある。

 

 

(2)「激変する国際情勢を前に足並みをそろえきれない姿に自公連立の限界」

自公連立政権は1999年、冷戦崩壊後に誕生した枠組みだ。

米国が「世界の警察官」の役割を果たしていた時代で、日本の安保も「米国頼み」だった。激変する国際情勢を前に足並みをそろえきれない姿に自公連立の限界を指摘する声が出ている。

 

(3)「戦闘機輸出の決定前の与党協議で公明党の意向が確保されるようにしたい」

首相は13日、国際共同開発する装備品の第三国への輸出解禁に関し「次期戦闘機の共同開発計画『グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)』に限定する」と語った。参院予算委員会で答弁した。

輸出対象国は日本が防衛装備品・技術移転協定を結ぶ国に絞り、戦闘が行われている国も除く。

首相は輸出を容認する防衛装備移転三原則の運用指針改定を閣議で決めると明言した。

実際に次期戦闘機を輸出する際も個別の案件ごとに閣議決定すると盛り「決定前の与党協議が確保されるようにしたい」と発言した。

 

(4)「第三国に輸出できなければコスト引き下げできないから、各国は共同開発で日本外し」

政府は当初、次期戦闘機だけでなく国際共同開発する防衛装備すべてに適用するよう求めていた。

公明党が「第三国輸出は紛争を助長しかねない」などと反発し見送った。こうした制約は安保協力の裾野を狭めかねない。

 

共同開発した装備品を第三国に輸出できなければ単価がかさんでしまう。結果、各国が日本との共同開発に二の足を踏む可能性がある。

 

(5)「無人化システムやサイバー、宇宙、電磁波などでの共同開発に参加できなくなる」

政府は今の時点で共同開発する装備品のうち第三国輸出を想定するのは次期戦闘機しかないと説明するが、各国にとって与党が設けた制約は「政治リスク」になる。

(慶大の神保謙教授)

「案件ごとの個別審議ではなく一般的な原則として第三国移転を容認すると合意すべきだ」と話す。「無人化システムやサイバー、宇宙、電磁波など共同開発は増えるとみられ、機を逸する懸念がある」と強調する。

 

(6)「装備品の大半は米国から米政府の「言い値」での購入ということの反省」

次期戦闘機は戦闘機開発で米国以外と協力する初めての例だ。装備品調達の米国依存を変え、自国の防衛産業を育てる契機になる。

自衛隊の装備の2割弱は海外から調達し、その大半は米国製だ。「対外有償軍事援助(FMS)」により米政府の「言い値」での購入になりがちになるといった反省があった。

 

(7)「米国が内向きになれば日本は欧州や韓国、オーストラリア、インドなどと安保協力」

米国では11月の大統領選で民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領が再び対決する異例の構図が固まった。トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)加盟国への防衛義務を守らない可能性に言及するなど「自国第一」が鮮明だ。

米国が「内向き」志向を強めれば、日本は米国だけでなく欧州や韓国、オーストラリア、インドといった国と安保協力を深める必要が一段と増す。

 

(8)「海外派遣や集団的自衛権の行使の一部容認に対し公明党が反対」

自衛隊の海外派遣や集団的自衛権の行使の一部容認といった局面でも「平和の党」を掲げる公明党はブレーキ役を自任してきた。そのたび自民党との隔たりを指摘されてきた。

浮き彫りになってきたのは重要な安保政策で相互に妥協を繰り返す自公政権の制度疲労だ。海洋進出を強める中国やロシアといった覇権主義的な国に対処するには、抑止力を左右する防衛政策を経済対策のような内政の課題と同じように扱う余裕はない。

 

(9)「自公政権が国際環境の変化について行けないなら連立政権の枠組みも限界」

「連立解消も辞さない」。次期戦闘機を巡る与党協議では自民党側からこんな声が公然とあがった。執行部内にも連立解消論はくすぶりつづけている。かつて公明党から柔軟姿勢を引き出した自民党議員もいまや菅義偉氏など数少ない。

間隙を突く勢力も現れてきた。日本維新の会の藤田文武幹事長は能動的サイバー防御を可能にする法案の早期提出を求めた。遠藤敬国会対策委員長は防衛装備品などの実務者協議の開催を自民党に持ち掛けた。

防衛政策のあり方は国際環境とともに変化する。自公政権が制度疲労から脱却できなければ、その枠組みにもやがて限界が訪れる。