糖尿病歴見落とし、カテーテルで多数死亡…問題相次ぐ神戸徳洲会に神戸市が異例の改善命令(24年3月13日 産経新聞オンライン無料版)

 

記事(吉国在、喜田あゆみ)

 

(1)要点「医療法人には異例となる医療法上の改善命令を出した」

神戸市垂水区の神戸徳洲会病院で、糖尿病患者が適切な治療を受けられないまま死亡するなど、医療事故が疑われる事例が次々と明らかになっている。

神戸市は今年2月、安全管理体制の是正を求め、病院を運営する医療法人「徳洲会」(大阪市、東上震一理事長)に対し、医療法人には異例となる医療法上の改善命令を出した。

市は昨年8月にも、カテーテル治療による患者の死亡が多発した問題を受け、病院を行政指導している。なぜ同じ病院で、こうした不可解な患者の死亡例が相次ぐのか。

 

カテーテル治療の問題を内部告発

 

(2)「カテーテル治療受けた13人のうち6人が死亡7人の症状悪化 告発書」

一連の問題の端緒は、昨年6月と7月、神戸市保健所宛てに届いた2通の告発書だ。

(告発書)

 主に昨年1月以降、同病院でカテーテル治療を受けた男女13人について、6人が死亡し、7人の症状が悪化したと指摘。

13人のうち12人に循環器内科の男性医師が関わり、中には処置のわずか数時間後に息を引き取った事例があると記載されていた。

 

(3)「市が、医療法に基づき3度にわたる立ち入り検査」

市は、告発書の内容が専門的かつ詳細である点を踏まえ、調査が必要と判断。同7月、同病院に対し医療法に基づき3度にわたる立ち入り検査を実施した。

この結果、安全管理体制に複数の不備があるとして翌8月、市は文書による行政指導を行った。病院は10月に是正計画書を提出している。

 

カルテ見落とし、遺族に虚偽説明

 

(4)「立ち入り検査で偶然発見した「インシデント・アクシデントレポート」には」

市が最も問題視するのは、この行政指導の約1カ月後に起きた糖尿病患者の死亡例だ。

市は翌11月6日、改善状況を確認するため立ち入り検査を行った。

その際に市の担当者が偶然発見したのが、同患者の死亡例が記載された「インシデント・アクシデントレポート」だった。

市によると、この70代男性患者は、別の医療機関で新型コロナウイルスの治療後、神戸徳洲会病院に再入院。この際、主治医である院長が電子カルテに記載された持病を見落として、適切にインスリンの投与などが行われず同9月に死亡していた。

 

(5)「主治医の院長のミス」

院長は、6日の立ち入り検査で市に対し「対応を終了し、問題のない事例だ」と回答した。ところが、実際は、病院側は当初、遺族に死因は肺炎とのみ説明。同院で通院時から継続していた糖尿病の治療を中断していた事実は伝えていなかった。

院長は、再度の立ち入り検査があった15日までに遺族へ連絡し、「血糖値コントロールがうまくいかず、死亡につながった可能性がある」とこれまでの説明を翻したという。

また、院内の医療安全調査委員会で医療事故かどうか継続調査が必要と判断されたにもかかわらず、十分な検証を実施しないまま放置していた。

 

行政指導中にも立て続けに問題発生

 

(6)「気管支鏡検査の数時間後に死亡 主治医がカルテの記載を怠る」

これだけにとどまらない。

 1)昨年10月、80代男性患者が気管支鏡検査の数時間後に死亡。院内から検証を求める意見が出たのに原因究明しない

 2)今年1月、90代男性が血圧を上昇させる薬剤の追加投与が間に合わずに死亡

 3)昨年9月と10月に死亡した2人の患者について主治医がカルテの記載を怠る-

といずれも行政指導中に問題が立て続けに起きた。

 

写真 神戸市は医療法人徳洲会に対し医療法に基づく改善命令を出した=2月20日午後、神戸市役所(安田麻姫撮影)

 

(7)「改善措置計画書の提出を求め、従わない場合は業務停止を命じる」

市はこうした経緯を踏まえ、ガバナンスが機能していないと判断。

2月20日、医療法人徳洲会に対し、医療法に基づく改善命令を出した。

改善命令は、医療事故を防ぐための行政上の措置で、病院に改善措置計画書の提出を求め、従わない場合は業務停止を命じることができる。改善命令は全国的にも異例で、兵庫県内では初めてという。

 

(8)「改善命令の内容は、どこの病院でも普通に守っていること」

改善命令の骨子は、

 1)患者の安全を最優先する医療安全管理体制の実現のため必要な措置を抜本的に講じる

 2)医療事故などが起きた場合の対策を実施する

 3)カルテの未記載を防止する対策を講じる-

など。

市の担当者は20日の記者会見で、「行政指導中にもかかわらず同じことを繰り返している」と病院の安全管理体制を批判。糖尿病患者の死亡例について「隠そうとしたと捉えられても仕方がないのではないか」と厳しく指弾した。

 

「怠慢というより忙しすぎる」現場の実態解明が急務

 

(9)「職種間の連携不足や、カルテの未記載などのコンプライアンス上の問題がある 担当者」

病院は2月以降、一時的に救急患者の受け入れを停止。今月5日には、医療法人徳洲会が改善命令に対する改善措置計画を提出した。

病院の担当者は「市の指摘通り、職種間の連携不足や、カルテの未記載などのコンプライアンス上の問題がある。真摯(しんし)に受け止めて適切に対処していきたい」と釈明した。

 

 

 

(10)「医師の受け持ち患者数が多すぎて」

病院の調査に関わった市の幹部は、産経新聞の取材に対し、問題の背景について「医師一人一人が受け持っている患者がかなり多い。怠慢というよりは、全員が忙しすぎて、組織の力が機能していない」との見解を示している。

 

(11)「ヒアリングでガバナンスの実態を丁寧にひもといて、抜本的な改革が必要」

(患者の安全に詳しい名古屋大医学部の長尾能雅教授)

 「短期間に重大な問題が多発する事例に共通するのは、内部で問題視された事案に対し、上層部による適切な判断がなされていないことだ。対処が後手に回って、患者の安全を基軸にしたガバナンスが機能していないのではないか」と指摘する。

「今回のような事案が起きた場合は、抜本的な改革が必要だ。患者安全の専門家をリーダーとする外部の有識者らで構成する第三者のチームが客観的な目で調査しなければならない」とし、「現場や幹部へのヒアリングを行い、ガバナンスの実態を丁寧にひもといて問題点を浮き彫りにする必要がある」と話した。(吉国在、喜田あゆみ)