春秋(24年3月8日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)ビジネスの記事で「シェア」といえば、かつてはおおむね市場占有率を指すのが普通だった。

「××業界でシェア首位企業が交代」「△△業界でシェア争いが激化」といった具合だ。どちらかといえば、たけだけしいイメージの言葉か。それがいつごろからか変わった。

 

(2)▼大皿料理が多いイタリアンが流行し、一つの料理を皆で仲良く分けあうことをシェアと呼ぶようになった。

経済記事では2010年に翻訳された「シェア 〈共有〉からビジネスを生みだす新戦略」(NHK出版)の影響が大きい。車、家、語学の能力といったものを消費者同士で共有、交換する時代が来ると説いた本だ。

 

(3)▼シェア経済は「20世紀が育んだ消費文化へのカウンター(対抗)」になると監修者の解説にある。

自宅に旅人を泊める民泊、中古品のネット売買などモノや空間のシェアは進んだ。一方で商品が届かないといった相談が国民生活センターに寄せられている。先日、あるシェアリングサービス会社の元代表が指名手配された。

 

(4)▼所有者から預かった高級腕時計を貸し出すと言いつつ、勝手に売却した疑いがかけられている。

理想をうたったシェア経済圏も、「シェア争い」時代のギラギラした空気に包まれつつあるのか。同じモノを共有することで、同好の士と友達になれる――。そんな未来像が語られていたシェア経済の黎明(れいめい)期を懐かしく感じる。