〈日経平均最高値 株高の先に〉海外勢、日本見直す風潮 (モルガン・スタンレーMUFG証券シニアアドバイザー )ロバート・フェルドマン氏 生産性革命のプラス大きい(24年3月2日 日本経済新聞電子版)
要点
(1)ーーバブルの頃から日本を知る海外出身のエコノミストとして、今の株価をどう見ていますか。
「今の日経平均株価は日本経済の実力通りだろう。
2010年代からはコーポレートガバナンス(企業統治)改革が進み、企業の資本の使い方もよくなった」
「いまは投資家と経営者が自己資本利益率(ROE)など同じ言語で話をできるようになった。
10~20年前には投資家からみて経営者とは話が通じないという雰囲気があり、株式を高く評価することができなかった」
「いまは10年ぶり、20年ぶりに会う海外投資家も多く、そういう人が日本株を買ってくれている」
(4)――バブルの時は日本株は崩れ日本経済も長い停滞に入りました。今回もそうしたリスクはないのでしょうか。
「実際に地政学や温暖化などのリスクはある。
ただ足元で生じている生産性革命のプラスの影響が大きく、株価が一段と上がる可能性もある」
(7)――日本経済の見通しはどうでしょうか。
「日本の年功序列システムはリスキリング(学び直し)を抑制する。
若い時期にほかの会社に行くと損となるため、リスキリングして転職しようという考えにはなりにくい。社内でスキルを使いたくても使う場所がないという問題もある。
労働習慣を変えるのが今後の生産性向上のための一つの策だ」
記事(聞き手は佐伯遼)
(1)ーーバブルの頃から日本を知る海外出身のエコノミストとして、今の株価をどう見ていますか。
「懐かしい水準に来たなと思っている。今の日経平均株価は日本経済の実力通りだろう。
30年前の株価は実力以上だったが、2010年代からはコーポレートガバナンス(企業統治)改革が進み、企業の資本の使い方もよくなった」
「いまは投資家と経営者が自己資本利益率(ROE)など同じ言語で話をできるようになった。
10~20年前には投資家からみて経営者とは話が通じないという雰囲気があり、株式を高く評価することができなかった」
「いまは10年ぶり、20年ぶりに会う海外投資家も多く、そういう人が日本株を買ってくれている」
(2)――国内総生産(GDP)が2四半期連続のマイナス成長となる中での高値更新となりました。この株高を不安視する声もあります。
「GDP統計は速報値から確定値までの間で大きく修正される難しい統計で、ほかの指標と比べてもGDPの方が正しくないだろう。2四半期連続のマイナス成長で『テクニカルリセッション(景気後退)』という意見もあるが、私は日本経済の現状をあまり心配していない」
(3)――賃金は物価に追いつかず、実質賃金の伸びはまだマイナスです。
「今の統計ではまだそうだが、今後の技術進歩で生産性が上がり、より高い賃金になることは十分あるだろう。
デフレ脱却とは名目GDPが伸びるということだ。(名目GDPを実質GDPで割った)GDPデフレーターは賃金と企業収益で算出される。名目GDPが増えれば賃金も企業収益も増える、ということになる」
(4)――バブルの時は日本株は崩れ日本経済も長い停滞に入りました。今回もそうしたリスクはないのでしょうか。
「実際に地政学や温暖化などのリスクはある。
ただ足元で生じている生産性革命のプラスの影響が大きく、株価が一段と上がる可能性もある」
(5)――1980年代には日本をどう見ていましたか。
「当時は株価が高すぎると思っていた。
生産性の伸びが減速していることや、女性の労働参加、公共事業の無駄遣いなど構造問題が解決していなかったためだ。
今の株価が高すぎると思わないのは、1990年代以降に日本が構造問題に色々と取り組んできたためだ」
(6)――ドル建ての名目GDPでドイツに抜かれ4位に落ちました。なぜ経済的な地位が落ちているのに日本株は買われているのでしょうか。
「統計上は地位が下がったといえるかもしれないが、今の日本は海外からの評価が極めて高いと感じている。
それは日本がリーダーシップを発揮できているからだ。
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉でも米国が離脱した後に日本がまとめ上げたことは、東南アジア諸国にとってありがたかった」
(7)――日本経済の見通しはどうでしょうか。
「日本の年功序列システムはリスキリング(学び直し)を抑制する。
若い時期にほかの会社に行くと損となるため、リスキリングして転職しようという考えにはなりにくい。社内でスキルを使いたくても使う場所がないという問題もある。
労働習慣を変えるのが今後の生産性向上のための一つの策だ」
(聞き手は佐伯遼)
Robert Alan Feldman 1953年生まれ。米テネシー州出身。マサチューセッツ工科大経済博士号取得。国際通貨基金(IMF)エコノミストなどを経て1990年にソロモン・ブラザーズ・アジア証券主席エコノミスト。モルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)のチーフエコノミストなどを歴任し2017年から現職。