吉田松陰の「後来の種子いまだ絶えず」 首相、政倫審で引用 安倍氏葬儀で昭恵氏が紹介(24年3月1日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)岸田文雄首相は29日の衆院政治倫理審査会で、安倍晋三元首相の妻・昭恵氏が安倍氏の葬儀で触れた「後来の種子いまだ絶えず」という言葉を引用した。自民党派閥による政治資金問題の中心となった安倍派に訴えかけたとの見方がある。

 

(2)「後来の種子いまだ絶えず」は幕末の思想家、吉田松陰の遺言だ。志を受け継ぐ人がいれば、まいた種は絶えることなく実っていくとの意味がある。

首相は「志を持った有望な人材を将来に引き継いでいくことの大切さを述べたこの言葉をいまかみしめている」と語った。

 

(3)「いまの政治を未来の世代に自信を持って引き継いでいくことができるかと思うときに誠に申し訳ない」と話した。

昭恵氏は2022年7月に東京・増上寺で実施した安倍氏の葬儀で、この言葉を交えてあいさつした。

 

■留魂録 第八節    吉田松陰.com

 

一、今日死ヲ決スルノ安心ハ四時ノ順環ニ於テ得ル所アリ

蓋シ彼禾稼ヲ見ルニ春種シ夏苗シ秋苅冬蔵ス秋冬ニ至レハ

人皆其歳功ノ成ルヲ悦ヒ酒ヲ造リ醴ヲ為リ村野歓声アリ

未タ曾テ西成ニ臨テ歳功ノ終ルヲ哀シムモノヲ聞カズ

吾行年三十一

事成ルコトナクシテ死シテ禾稼ノ未タ秀テス実ラサルニ似タルハ惜シムヘキニ似タリ

然トモ義卿ノ身ヲ以テ云ヘハ是亦秀実ノ時ナリ何ソ必シモ哀マン

何トナレハ人事ハ定リナシ禾稼ノ必ス四時ヲ経ル如キニ非ス

十歳ニシテ死スル者ハ十歳中自ラ四時アリ

二十ハ自ラ二十ノ四時アリ

三十ハ自ラ三十ノ四時アリ

五十 百ハ自ラ五十 百ノ四時アリ

十歳ヲ以テ短トスルハ惠蛄ヲシテ霊椿タラシメント欲スルナリ

百歳ヲ以テ長シトスルハ霊椿ヲシテ惠蛄タラシメント欲スルナリ

斉シク命ニ達セストス

義卿三十四時已備亦秀亦実其秕タルト其粟タルト吾カ知ル所ニ非ス

若シ同志ノ士其微衷ヲ憐ミ継紹ノ人アラハ

◆乃チ後来ノ種子未タ絶エス自ラ禾稼ノ有年ニ恥サルナリ

同志其是ヲ考思セヨ

 

(現代語訳)

私は三十歳、四季はすでに備わっており、花を咲かせ、実をつけているはずである。それが単なる籾殻なのか、成熟した栗の実なのかは私の知るところではない。
もし同志の諸君の中に、私のささやかな真心を憐れみ、それを受け継いでやろうという人がいるなら、それはまかれた種子が絶えずに、穀物が年々実っていくのと同じで、収穫のあった年に恥じないことになるであろう。
同志諸君よ、このことをよく考えて欲しい。

(参考文献:古川薫著「吉田松陰 留魂録」)