ホンダの燃料電池車、外部充電OK SUV、日常使いに 水素使わず60キロ走行(24年2月29日 日本経済新聞電子版)
記事(沖永翔也)
(1)要点「ホンダ新型の燃料電池車(FCV)を2024年夏 60km走行充電バッテリー搭載」
ホンダは28日、充電だけでも走行できる新型の燃料電池車(FCV)を2024年夏に日本で発売すると発表した。
充電機能は競合する韓国の現代自動車やトヨタ自動車は備えていない。充電だけで60キロメートルを走行できる。買い物や送迎など日常で使いやすくすることで、FCVの普及を後押しする。
写真 ホンダの新型の燃料電池車「CR-V e:FCEV」(28日)
(2)「航続距離600kmの水素燃料、満充填は約3分」
都内の展示会場で28日、多目的スポーツ車(SUV)「CR-V e:FCEV」を初めて披露した。航続距離は約600キロメートルで米国で生産する。水素燃料の満充填までにかかる時間は、ガソリン車に対する給油時間と同じ約3分だ。
(3)「駆動用リチウムイオン電池を搭載、充電だけで60km走行可能」
特徴は駆動のためのエネルギーを生み出すリチウムイオン電池を搭載し、充電できる機能を加えたことだ。販売台数で先行する現代自やトヨタにない機能で、充電だけで約60キロメートル走ることができる。
(4)「自宅や充電拠点で、残量20%から80%に回復する時間は約2時間」
充電残量20%から80%に回復する時間は、普通充電(6キロワット出力)で2時間程度となる見通し。自宅や全国の拠点で充電できる。先行予約は29日から始めるが、販売目標や価格は明らかにしていない。
(5)FCVは同じ環境車の電気自動車(EV)と比べ普及が進んでこなかった。
調査会社マークラインズによると、主要14カ国の23年の電動車(EVやプラグインハイブリッド車など)は前年比28%増の1196万台だった。
一方でFCVは世界の主要な地域で41%減の9100台に落ち込んだ。
図表を保存
(6)「市場が低迷する主な2つの理由」
1)水素の充填インフラの不足だ。
資源エネルギー庁によると、
全国の給油所数は22年度末時点で2万7963カ所ある。
国内のEV充電スポット数は足元で2万カ所(充電スポットの検索サイトを手がけるゴーゴーラボ(神奈川県鎌倉市))
水素を充填できる場所は、整備中を含め約180カ所(23年時点)に過ぎない。
ホンダは充電で走ることができれば、買い物などに気軽に使えるため利便性が高まると判断した。日本自動車工業会によると、1日あたりの平均走行距離は9割以上の自動車が40キロメートル未満といい、需要に対応できる。水素燃料を使った走行と組み合わせれば遠出も可能だ。
2)販売価格
現代自の「ネッソ」やトヨタの「ミライ」などの競合各社のFCVは800万円程度する。
充電機能などを加えると、さらにコストが上昇する。
ホンダは現時点で新型車の価格を未定としているが「手の届く範囲」(同社)を検討しているといい、競合車と同程度の価格水準にできれば、普及の後押しとなる。
(7)「コスト低減対策」
その一つが、米ゼネラル・モーターズ(GM)と燃料電池の共同開発だ。
両社が材料を共同調達するほか、高価な貴金属の使用量を減らした。従来比で製造コストを3分の1に抑えている。
車体は、既存の「CR-V」の車体を応用して設計した。燃料電池関連の部材を一部減らすなどで部品点数の削減につなげた。
(8)「水素価格の抑制や充填拠点の拡大に官民で取り組む必要がある」
FCVは足元で停滞感があるが、脱炭素の潮流でEVとともに市場が拡大する。
カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると、32年の世界のFCV市場は23年の4.7倍の4287億ドル(約64兆円)に達すると予測する。
(東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリスト)
「水素の充填スタンドが足りない中、FCVの実用性を担保しようとしている」と評価したうえで、「(燃料となる)水素価格の抑制や充填拠点の拡大に官民で取り組む必要がある」と指摘する。
(9)
FCVには災害時に電源にできる強みもある。屋外イベントに使う照明など大型電気製品に電力を供給する直流給電口も備え、ビジネス需要の取り込みも重要になる。
FCVに関する特許出願件数は長らく日本勢が先頭を走ってきたが、直近は中国勢の件数が伸びている。日韓勢に追いつこうと新興メーカーなどが研究開発のスピードを高めており、充電式がFCVの停滞を打破する契機になる可能性がある。
(沖永翔也)