日銀利上げ、世界も備え G20財務相会議が開幕 緩和マネー、日本回帰へ(24年2月29日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)要点「日本の低金利下で海外に流出していた「緩和マネー」が日本に戻る」

(2)「金融引き締め政策が下向きリスクを生んでいる」(イエレン米財務長官)

(3)「米国は次は利下げでもなお高金利水準で、銀行は貸し出し態度を厳格化」

(4)「日銀の次の一手に注目」

(5)「円滑な利上げには賃金などの要因を挙げ、段階的かつ慎重なペースで引き上げることを強調すべき」(IMF)

(6)「日本の国内投資家による海外の証券投資額は22年末に531兆円」

(7)「日本の緩和マネーは主要国以外にも浸透しているが、これが日本へ流出すると」

(8)「国内の生命保険会社は「為替リスクがなく利息が付く日本国債」の残高を増やし始めた」

(9)「ECBも、日本の金融正常化で「投資のリパトリエーション(資金回帰)」始まる」

(10)「日本では(マイナス金利解除後も)緩和的な環境が続く」日銀総裁

(11)「市場は早期利下げ期待だが米欧中銀トップは物価動向を慎重に見極めたい」

 

 

記事【サンパウロ=五艘志織】

 

(1)要点「日本の低金利下で海外に流出していた「緩和マネー」が日本に戻る」

20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が28日、ブラジルのサンパウロで開幕した。

世界ではインフレが沈静化しつつあり、米欧中銀は利下げ時期を探っている。日銀がマイナス金利解除に動けば、低金利下で海外に流出した「緩和マネー」が日本に戻る可能性がある。日銀の動向は世界のマネーフローを左右する。

 

(2)「金融引き締め政策が下向きリスクを生んでいる」(イエレン米財務長官)

初日は世界経済のリスクや金融政策などを議論する。日銀植田和男総裁らが出席する。

(イエレン米財務長官)

27日、開幕に先立ってサンパウロで記者会見し「多くの国で金融引き締め政策が実施されてきた。それが下向きリスクを生んでいる」と発言。これまでの利上げが時間差で実体経済に与える影響を点検する考えを強調した。

 

(3)「米国は次は利下げでもなお高金利水準で、銀行は貸し出し態度を厳格化」

(米連邦準備理事会(FRB))

 2023年7月を最後に利上げを休止しており、次の一手は利下げになる見通しだ。ただし、政策金利はなお高水準にあり、銀行は貸し出し態度を厳格化している。

米地銀ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)が商業用不動産関連で大型損失を出すなど火種もくすぶっている。

 

(4)「日銀の次の一手に注目」

米経済の先行きとともに金融市場が注目するのが日銀の次の一手だ。

日銀は主要中銀がインフレ対応の金融引き締めを続けるなか唯一、マイナス金利政策を維持してきた。

金融市場安定の「アンカー」だった日銀が引き締めに転じれば、資金の流れが逆回転しかねず世界も備えを始めている。

 

(5)「円滑な利上げには賃金などの要因を挙げ、段階的かつ慎重なペースで引き上げることを強調すべき」(IMF)

「日銀が金利を段階的かつ慎重なペースで引き上げることを支える(賃金などの)要因を強調することが、円滑な移行の鍵だ」。国際通貨基金(IMF)は2月上旬、日銀の金融政策をめぐり声明を発表した。そのうえで「日本の投資家が大きなポジションを保有する他の債券市場への混乱を最小限に抑える」ことにつながると強調した。

 

10年で7割増

 

 

(6)「日本の国内投資家による海外の証券投資額は22年末に531兆円」

IMFが指摘する通り、13年に日銀が異次元緩和を導入してから日本の機関投資家は運用先を海外に求めてきた。

財務省の本邦対外資産負債残高によると、国内投資家による海外の証券投資額は22年末に531兆円に達する。

低金利下の日本で行き場を失った「緩和マネー」による海外投資は10年間で約7割増えた。

 

 

 

米欧やオーストラリアなどでは日本の投資家の存在感が大きい。

「米国債保有額」

 日本は海外勢でトップ。米財務省が15日発表した23年12月の対米証券投資統計によると、日本勢の米国債保有額は1兆1382億ドルと全体の14%を占めた。

 

インフレ状態に

 

(7)「日本の緩和マネーは主要国以外にも浸透しているが、これが日本へ流出すると」

(IMFの報告書)

21年末時点の各国の債券市場における日本人投資家のシェアはマレーシアで3%超、メキシコも2%超、インドネシアが2%などとなっている。

 

(8)「国内の生命保険会社は「為替リスクがなく利息が付く日本国債」の残高を増やし始めた」

植田総裁は22日の国会で「(日本経済は)デフレではなくインフレの状態にある」と答弁。賃金・物価の好循環が強まっていくとの見方も示し、マイナス金利解除の条件が整いつつあることを示唆した。

利回りを求めて海外に向かっていた投資家は日本国債への回帰のタイミングを探っている。

(国内主要生命保険会社の23年度下半期の資産運用計画)

 10社中7社が上半期に比べて国内債の残高を増やすとした。

日本国債で一定の利回りが得られるなら、わざわざ為替変動リスクを伴う外債投資よりも合理的に映る。

 

(9)「ECBも、日本の金融正常化で「投資のリパトリエーション(資金回帰)」始まる」

IMFだけでなく欧州中央銀行(ECB)も23年に公表した金融システムの安定に関する報告で、日本が金融正常化にかじを切れば「投資のリパトリエーション(資金回帰)を促進する可能性」があると指摘した。

 

(10)「日本では(マイナス金利解除後も)緩和的な環境が続く」日銀総裁

日銀は海外の目も意識し、米欧のような急速な利上げになる可能性は低いとの発信を増やしている。

植田総裁は1月の記者会見で「(マイナス金利解除後も)緩和的な環境が続く」と説明。内田真一副総裁も8日の講演で「どんどん利上げをしていくようなパスは考えにくい」と述べた。日銀関係者は「今回のG20でもそこを丁寧に説明し、理解してもらうことになる」と話す。

 

(11)「市場は早期利下げ期待だが米欧中銀トップは物価動向を慎重に見極めたい」

世界の物価上昇は沈静化しつつあるが、ウクライナや中東情勢など地政学的リスクは絶えず、インフレを再燃させる懸念もある。

市場で早期利下げ観測が広がる中、米欧の中銀トップは物価動向を慎重に見極めたいとの意向を強調している。

(ECBのラガルド総裁)

G20開幕に先立ち、26日の欧州議会で「ディスインフレプロセスは継続すると見込まれるが、2%目標達成につながる確信を必要としている」とした。

(G20に出席するFRBのパウエル議長)

4日のテレビ番組で「多少の時間をかけて、インフレ率が持続的な形で低下しているとデータで引き続き確認する」と述べた。