防衛装備輸出「全面解禁に」 5類型は撤廃 谷内元国家安保局長に聞く 歯止めはNSCで検討(24年2月29日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)要点「防衛装備品の輸出を原則、全面解禁すべきだ」

国家安全保障局の初代局長を務めた谷内正太郎(やちしょうたろう)元外務次官が日本経済新聞のインタビューに答えた。

日本の安保環境は「戦後、最も厳しく複雑だ」と指摘し、日本が平和の構築に積極的な役割を果たす必要があると強調した。防衛装備品の輸出を原則、全面解禁すべきだとの認識を示した。

 

写真 初代の国家安全保障局長を務めた谷内氏 

 

(2)厳しい安保環境の例として、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮や、米国と覇権を争う中国を挙げた。ロシアのウクライナ侵攻の推移によっては、中国が台湾への圧力を高めたり北朝鮮が挑発を強めたりし、東アジアに影響が及ぶリスクに懸念を表明した。

 

(3)「国益の中核は国家安全保障、つまり国民の生命と財産を守ることだ」

「国益の中核は国家安全保障、つまり国民の生命と財産を守ることだ」と主張した。

日本と地理的に離れたウクライナでの戦争やイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突について「国家安保の問題として日本に教訓を与える」と述べた。

日本が置かれた安保環境を踏まえて「総合的、多角的な体制を構築すべきだ。防衛力の強化はその柱になる」と語った。「防衛装備品の輸出は国家安保体制の構築の一環と位置づける必要がある」と訴えた。

 

(4)谷内氏は国家安保局長時代の14年、安倍晋三首相の指示のもと「防衛装備移転三原則」の閣議決定を主導した。

装備品と関連技術の輸出を原則禁じた「武器輸出三原則」を抜本的に改め、一定の条件下での輸出に道を開いた。

 

(5)現行の「武器輸出三原則」は対象とする国や製品を厳しく制限する。

谷内氏は何を禁じるかを示す「ネガティブリスト型」を基本とする必要性を強調した。

問題のあり得る対象は国家安全保障会議(NSC)のもとで検討し判断するのが適当だとの考えを示した。

装備品の輸出を認める「救難」「輸送」「警戒」などの5類型といった制限を原則撤廃すべきだとの考えを明らかにした。

国連安全保障理事会の制裁対象となっている国などには輸出を禁止して歯止めをかけることを提起した。

 

 

 

(6)「侵略されて自衛権行使して戦う国にはできうる限りの協力を」

谷内氏は日本の戦後の「平和国家」としての歩みを評価しつつ、安保環境の変化に柔軟に対応することを重視する。

「世界や地域の平和に積極的に貢献するのが平和国家のあり方だ。貢献の仕方は総合的かつ多角的に検討すべきで、その中には装備品の提供も当然あり得る」と話した。

「装備品の輸出に過度に慎重になると、いざという時に日本を支援してくれる国はなくなるかもしれない」と警鐘を鳴らす。

ウクライナを念頭に「侵略を受けて自衛権を行使している国にはできうる限りの協力をすればいい」と説いた。

 

(7)装備品の輸出を拡大する利点として国内の防衛産業の基盤強化を挙げた。「市場が日本に限られなければインセンティブになる」と説明した。ウクライナの戦争で焦点が当たった弾薬の備蓄といった「継戦能力」の維持にも資するとの認識だ。

現行の移転三原則のもと安保局長時代に逸した外国からの引き合いが多数あることを示唆した。官民が連携して市場でシェアを増やす韓国を例に挙げ「日本も学ぶべきだ」と唱えた。

 

(8)「政府が率先して防衛産業が衰退する懸念を払拭すべき」

谷内氏は1月、元政府高官の有志と国家安保局長を議長とする省庁横断の司令塔機能の設置を求める提言をまとめた。

将来的な独立行政法人の設立にも触れた。

「政府が率先して防衛産業が衰退する懸念を払拭する必要がある」と分析した。

各種世論調査では装備品の輸出になお慎重論が強い。

谷内氏は「価値を共有する同盟国や同志国を助け、自由で開かれた国際秩序を維持することは国民の利益に直結する」と発言した。「戦争と平和の議論から逃げてはいけない」と言明した。

 

■谷地正太郎 ウィキペディア

外務省における田中眞紀子と鈴木宗男の争いにおいては、田中眞紀子に忠実に仕えた。鈴木宗男に対しては「私は鈴木さんには詫びない。鈴木さんの考え方は、外交論として筋の通ったものだ。それを踏まえたうえで、外務省の方針を決める。それで鈴木さんとぶつかるなら、残念だけれども仕方が無い」という態度をとり、後日の鈴木宗男バッシングにも加わらなかった。これを鈴木に伝えた外務省の情報官・佐藤優によれば、それを聞いた鈴木は「谷内はしっかり者だ」と言ったという。佐藤も、谷内を「官僚道をわきまえた人物」と評価している[4]

 

2009年(平成21年)4月17日付の毎日新聞朝刊に掲載された北方領土に関するインタビューで、「個人的には3.5島返還でもいいのではないかと考えている。北方四島を日露両国のつまずきの石にはしたくない」と述べ、四島すべての返還に固執するべきではないとの考えを示した[5]。同年4月20日に外務大臣の中曽根弘文からこの発言に対し厳重注意を受け、「全体の発言の流れの中で誤解を与えるような発言があったかもしれない。深く反省している」と述べた。

 

2013年(平成25年)11月、週刊文春に第2次安倍内閣にカジノ構想実現を強く働きかけていたセガサミー会長の里見治と、同社の顧問を務めるなど公私ともに極めて親密な関係にあると報じられた[6]

 

第1次安倍内閣では安倍首相の初外遊である電撃訪中をともに日中総合政策対話を行ってきた中国の戴秉国と交渉に当たり、実現させた[11]。第2次安倍内閣誕生後も2015年(平成27年)7月の訪中以来から中国政府と日中ハイレベル政治対話を定期的に行っており[12][13][14]、谷内が安倍政権で重要な役割を果たしていることから日本の一官僚に対するものでは中国は異例の厚遇をしていると石平は評している[15]

2016年11月にはロシア連邦大統領のウラジーミル・プーチンの訪日に備えた予備交渉をロシアのニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記と行い、北方領土2島返還後の米軍の基地配備について問われ可能性を示唆してロシア側を仰天させた[16]

 

外交を巡っては中露との経済協力に慎重であり、ロシアとの共同経済活動や中国の一帯一路やAIIBへの参加に積極的な秘書官の今井尚哉との政権内での対立も報じられていた[17]

 

2018年米朝首脳会談では、事前に行われた安倍首相とアメリカ合衆国大統領のドナルド・トランプによる日米会談などのための訪米に同行したのち、情報収集のため金杉憲治外務省アジア大洋州局長とともに、現地シンガポールに派遣された[18][19]

2019年9月13日に内閣改造に合わせて、国家安全保障局長・内閣特別顧問を退任[20][21]