機密情報の保護、国際標準に 「資格制度」法案を閣議決定 経済安保、AIなど 海外と協業後押し(24年2月28日 日本経済新聞電子版)
記事
(1)要点「重要経済安保情報保護・活用法案」
政府は27日、経済安全保障上の秘密情報を取り扱う人を認定する資格制度の創設を盛り込んだ新法案を閣議決定した。
日本は資格制度が主要7カ国(G7)で唯一なく、国際標準に足並みをそろえる。企業は半導体など経済安保で重要な先端技術で海外企業と協力しやすくなると期待する。
(2)「情報保全の強化と日本企業の国際的なビジネスチャンスの拡大が目的」(高市早苗経済安保相)
同日の記者会見で、新法案に関し「情報保全の強化と日本企業の国際的なビジネスチャンスの拡大が目的だ」と述べた。
名称は「重要経済安保情報保護・活用法案」で、政府・与党は今国会での成立を目指す。
(3)「重要インフラ、重要物資、サイバー防御、情報収集能力の情報」
漏洩すると安保上の支障が出て、国益を損なう機微な情報を「重要経済安保情報」に指定する。
具体的には
重要インフラや
半導体など重要物資のサプライチェーン(供給網)に関わる情報や、
サイバー攻撃への防御策
などのほかに
外国政府や国際機関から提供を受けたり、
国の情報収集能力に関わったりする情報
も保全対象になる。
漏らした人に最大で「5年以下の拘禁刑」などを科す。
(4)「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度
情報を扱う人を認定する「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度を新設する。本人の同意を前提に身辺調査し、
犯罪歴や
薬物使用の有無、
家族の国籍
などを調べる。
資格は国が持つ重要情報を扱う要件になる。政府職員に限らず民間企業の従業員も取得できる。
(5)「特定秘密保護法との調整や役割分担ができている」
日本は米欧の主要国に比べ機密情報の保護制度の整備が遅れていた。
「2014年施行の特定秘密保護法」
防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野を対象に機密保護の制度と罰則を設けた。
ここで定めた「特定秘密」に至らない経済安保上の重要情報を保護する制度が欠けていた。
(丸紅経済研究所の今村卓所長)
今回の法案決定に関し「保全対象の扱いも特定秘密と整合性がある運用に工夫がされた」と話す。「民間企業にとっても必要な一歩だ」と強調する。
(6)「海外政府の入札参加、海外と共同研究・開発を進める条件ができる」
制度の不備は日本企業が海外と共同研究・開発を進める支障になっており、企業側は法整備を求めていた。政府の有識者会合で「海外政府の入札の説明会で、資格保有が説明会の要件に課せられ参加できなかった」との実例も報告された。
先端分野の人工知能(AI)やサイバー攻撃対策をはじめ、民生・安保双方に技術を用いる「デュアルユース」が進む。
(NEC)
日本の新たな制度が各国と同等だと認められれば「信頼性を保ちながら更なる国際連携ができる」とみる。
(三菱電機)
「国際的な開発がより容易になり、学術的コミュニティーへの参加も可能になる期待がある」と評価する。
(7)「企業には情報管理の徹底などの責務 適格性評価を受けた人の個人情報厳格管理」
企業にとっては情報管理の徹底など責務も伴う側面もある。
従業員が情報を漏らした場合は法人にも罰金が科せられる。適格性評価は国籍などが審査に関わり、個人情報の保護への懸念もある。
(ソフトバンク)
環境整備を評価しつつ「業務配置に関わることもある。政府から広く丁寧な説明を求めたい」と訴える。
(川崎重工業)
「自由な企業活動や個人のプライバシー保護の観点も十分に配慮し、分かりやすい明確な運用基準やルールを示してほしい」と要望する。
(日大の小谷賢教授)
「企業も適格性評価を受けた人や通らなかった人の個人情報を厳格に扱わなければならない」と指摘する。