国産クラウド育成へ、さくらネットに6億円補助金…IT人材獲得を後押し(24年2月15日 読売新聞オンライン無料版)

 

記事

 

(1)要点「経済安全保障上、国産クラウド育成が急務」

自治体が持つ個人情報などを管理する政府クラウドを巡り、経済産業省は提供事業者に選ばれたIT企業さくらインターネットを支援する方針を固めた。

クラウド分野では米巨大IT企業へ依存する状況が続いており、経済安全保障上、「国産クラウド」の育成が急務となっている。6億円の補助金を拠出し、技術開発を後押しする。

 

(2)クラウドは、2022年12月に経済安全保障推進法に基づく「特定重要物資」に指定されており、補助金は経済安全保障関連の基金から拠出される。

 

(3)「26年3月までに政府クラウドの選定要件を満たすことが選定の条件」

さくらは昨年11月、日本企業として初めて政府クラウドの提供事業者に選ばれた。

ただ、現時点で政府クラウドの選定要件を満たせておらず、25年度末までに全ての要件を満たすことが選定の条件となっている。

 要件を満たすには、クラウドの機能を短期間で大幅に向上させる必要があり、高度なソフトウェアを開発できる優秀なIT人材の獲得がカギとなる。

さくらは補助金を主にIT人材の確保に充てる見通しで、24年度に最大200人の人材を採用する方針だ。

データの保管や暗号化などの技術開発を加速する。

 

(4)クラウドは国民や産業などのデータ管理に不可欠なインフラとして重要性が高まっている。

だが、アマゾン、マイクロソフト、グーグルの米巨大IT3社の日本でのシェア(市場占有率)は60~70%に上る。国内企業のシェアは低下傾向にあり、自国のデータは自国で守るという「データ主権」の観点から懸念が高まっている。

 

 ◆ さくらインターネット =1999年設立の中堅のIT企業。本社は大阪市。クラウドサービスを主力事業とし、東京や大阪、北海道でデータセンターを運営する。2023年3月期の連結売上高は206億円、従業員数は822人(23年末時点)。(以下有料記事)

 

■ガバメントクラウド初の国産サービス さくらインターネットが選定  ImpressWatch

臼田勤哉2023年11月28日 12:13

 

デジタル庁が進める「ガバメントクラウド」において、国産クラウドサービスの対応が決まった。2025年度末までに技術要件を満たすことが条件となる。

さくらインターネットは28日、IaaS型クラウドの「さくらのクラウド」が、2023年度にデジタル庁が募集した「ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービス」に認定されたと発表した。同認定は、2025年度末までに技術要件をすべて満たすことを前提とした条件付きの認定となる。

 

今後、主たるクラウド環境として「さくらのクラウド」を開発強化するほか、周辺機能の一部はマイクロソフト製品等のサードパーティ製品を用いて開発し、2025年度中にガバメントクラウドとしての提供を目指す。

ガバメントクラウドは、政府共通のクラウドサービスの利用環境。政府や地方自治体のアプリケーション開発を現代的なものに刷新すべく、推進されている。2022年10月の公募では、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructureと、外資のサービスのみが採用されていた。条件付きだが、国産サービスでは初の採択となり、サードパーティを活用した単独提案となる。

なお、官庁、自治体において175の本番環境、115のシステムが使われている。内訳はAWSが162、Gooogleが8、Oracleが3、Azureが2。

 

■国産クラウドサービスの現状を調べてみた  JCS

2022年12月9日 戸田 忠良

政府クラウドについての結論(末尾部分)

「国内勢のクラウドの発展を企図して国内勢クラウドを政府などが積極的に採用すべし」というような自民党の主張は現状では現実味が感じられない程度に彼我の差が拡大している。

 

 

1)“クラウド”の略称で呼ばれている「クラウド・サービス(Cloud Service)」の定義を確認しておこう。IT用語辞書(注20-1)の定義を参照してみる。

 

【クラウドサービス(cloud service)】

クラウドサービスとは、従来は手元のコンピュータに導入して利用していたようなソフトウェアやデータ、あるいはそれらを利用するための技術基盤(サーバなど)を、インターネットなどのネットワークを通して必要に応じて利用者に提供するサービス。

 

このような仕組みを自前で用意すること(これを「オンプレミス」という)は不要で、即座に利用可能なことが特徴となる。

 

2)クラウドには、大きく三つのサービス階層がある。

図20-1に示したのが、それらの三つとオンプレミスを比較したものである。

 

SaaS(Software as a Service)

 SaaSとはクラウド上に展開されているソフトウェアを利用できるサービスを指す。アカウントをもっていれば、インターネット経由でどこからでもアクセスすることができる。そして、場合によってはグループやチームでファイルやデータを共有して利用することが可能である。

 ソフトウェアのバージョンアップはサービス提供者側が更新を行う。そのため常に最新機能を利用でき、ソフトウェアのバグを放置したままになることも原則的には無い事になる。

 SaaSはサービスを契約し、ユーザアカウントが準備できれば、すぐにサービス利用開始可能となる。

 

PaaS(Platform as a Service)

 PaaSとはクラウドに構築されているプラットフォームが利用できるサービスを指す。

 大規模なデータセンターに、アプリケーションを稼動するためのネットワーク、サーバーシステム、OSやミドルウェアなどのプラットフォームが用意され、ユーザはそのプラットフォーム上で開発を行い、構築したソフトウェアをそのまま利用できる。

 

IaaS(Infrastructure as a Service)

 IaaSとはクラウドにある、ネットワークやサーバー(CPU・メモリ・ストレージ)などのコンピューティングリソースを利用するサービスを指す。

 クラウドサービスを利用することで、必要なときに必要なだけITシステムを利用可能とするものである。

 IaaSのメリットは、経年劣化によるハードウェアの交換を自社で行う必要はなく、クラウド事業者に委ねることで管理が必要ない点だ。

 また、ハードウェアを稼働させるための電気料金や保管する設備や施設などのランニングコスト削減にも繋がる。

 一方でデメリットは、自社の業務用にカスタマイズがしづらい点だ。クラウドサービスは他社と共有して利用するため、何らかの制約がある環境で利用しなければならない。解決方法としては、オンプレミス環境(自社保有環境)とクラウドサービスを併用するハイブリッド型(次項で説明する)を構築することで、ITインフラ環境を最適化する方法が好ましいと言われている。

 

3)日本におけるSaaS市場

 表20-1に示すのは、日本におけるSaaS、DaaS、PaaS、IaaSなどの市場規模(売上)の実績や予測を表示したものである。

この表の出典は下記のホームページ(注20-2)からである。

この表に示されたクラウド市場全体の売上は、2021年見込みで2兆円強、2025年予測で3兆2千億円弱となっている。

2025年の予測数字を見てみると、2020年対比でクラウド市場全体で193.5%アップとなっている。IT市場全体の年間の伸びが2~3パーセント程度であることを考えると、日本に於けるクラウド市場の伸びは目覚ましいものがあると言える。

 

外国勢が市場を牽引

AWS(Amazon Web Service)、MS Azureの米国勢2社である。

 

国産勢の動向

国産SaaSに限定の売上上位10社を表20-3に示す。この資料の出典はクラウド市場の表と同じホームページである。以下、上位3社のプロフィールを見てみよう。

 

日本企業

(ア)Sansan

売上1位の企業は、売上高161億円の「Sansan」である。

2007年に名刺管理サービスを提供することを目的に「三三株式会社」を設立、法人向けのServiceである「LinkKnowledge」を提供。2013年にサービス名を「Sansan」に変更、現在7,000社に導入され、同様のサービスでは82%という圧倒的シェアを誇る。現在ではテレビCMでもおなじみの企業となっている。主要な提供サービスは次の3つ。

Sansan(営業DX,名刺管理)

Eight(個人、スモールビジネス向け名刺管理)

BillOne(請求書受領サービス)

 

(イ)サイボウズ

これまでSaaS企業の売上首位を走っていたのは「サイボウズ」であった。2021年では残念ながら「Sansan」に首位をとられ2位となった。売上高は156億円で、クラウドベースのグループウェアや業務改善サービスを提供している。主要なサービスは以下の通り。

サイボウズOffice(中小企業向けグループウェア)

サイボウズGaroon(中堅・大手企業向けグループウェア)

Kintone(総合業務管理サービス)

 

(ウ)ラクス

楽楽明細のCMでもおなじみの「ラクス」が3位。売上高は122億円となっているが、これはSaaS(クラウド)事業によるもので、ラクス社の売上高全体としては、153億円となっている。なお「楽々明細」は全年比127%成長しているという。

 

4)日本国内のIaaS、PaaSの市場

アイ・ティ・アール(ITR)社の発表(注20-3)によると、国内IaaS/PaaS市場の2019年度の売上金額は6020億2000万円で、前年度比27.7%増を記録した。

予測によれば、2022年度には1兆円規模に達するとしており、2019年度6020億円から2024年度には1兆3334億円とこの5年間で約2.21倍の成長を遂げるとITRは予測している。

 

IaaS、PaaS市場の中の主要なサービスメニューが「クラウドサーバー」である。

つまり、クラウドサービスの中の主力を占めるのが、クラウドサーバーというメニューなのである。

表20-3にて「クラウドサーバー/米国勢との使用上限比較」と題して、ユーザーが使用する際のサーバーの能力を決める使用上限を米国勢(アマゾン、マイクロソフト、グーグルの3社)と国内勢のそれとを比較したものを示した。

この表を見て即座に気付くことは、国内勢の上限が一桁違うことである。

つまり、ユーザーが大規模なサーバーが必要なシステムを構築したい場合、国内勢のクラウドでは難しいかも知れないと見られる。

 

政府クラウド

以前の回に述べたように、政府クラウドの候補として、AWS(Amazon Web Service)とGCP(Google Cloud Platform)の二つが選定されたことをお伝えした。

セキュリティや信頼性等の比較以前に、大きな処理能力を必要とする情報システムのクラウド利用は、国内勢のクラウドでは難しいという判断が極めて妥当ということになるのだ。

残念ながら、大規模なサーバーが必要な情報システムでは、国内勢の採用には限界があるということになる。

結論

「国内勢のクラウドの発展を企図して国内勢クラウドを政府などが積極的に採用すべし」というような自民党の主張は現状では現実味が感じられない程度に彼我の差が拡大しているのである。