外資の土地買収に法規制を 「習近平体制の衰退で富裕層が日本に食指」平井宏治氏指摘(24年2月12日 産経新聞オンライン無料版)

 

記事

 

(1)要点

今国会で、注目すべき質疑が行われた。

衆院会派「有志の会」の北神圭朗議員(無所属)が6日の衆院予算委員会で、岸田文雄首相に対し、外国資本による日本国内の土地や不動産の買収を規制する法整備の必要性を求めたのだ。

都心部のマンションや山林部の水源なども物色対象となるなか、日本では一昨年、安全保障上、重要な施設や国境離島を守る「土地利用規制法」が施行された。

ただ、注視区域の調査や、不動産売買時の「届け出」は義務付けているが、「売買」の規制がないなど十分ではない。

日本人や国内資本が介在する「ステルス購入」も懸念される。日本を取り巻く安全保障環境が激変するなか、現状のまま放置すべきではない。

 

(2)「宮崎県では東京ドーム150個分の山林が中国資本に買われている」

「外国人の土地買収を規制できないことは、国家安全保障や食料安全保障上の危機にかかわる」

北神氏は、こう強調した。

6日の予算委では「宮崎県では東京ドーム150個分の山林が中国資本に買われているが止められない。土地規制をきちんとやるべきだ」と岸田首相をただした。

(農水省)

居住地が海外にある外国法人や外国人などによる森林取得面積は、2010年に558ヘクタールだったのが、21年には2614ヘクタールに急増した。農地取得面積は17~21年までの累計で67・6ヘクタールに上るとしている。

 

(3)「農地と山林は農水相が調査。国道沿いや港湾は国交省は調査さえしていない」

(北神氏)

「国道沿いや港湾、海岸線の土地が買収されているという噂も聞く。

農地

 食料安全保障の面でも重要で、

山林

 買収されると水源地として重要なインフラを押さえられる恐れがある。

港湾や海岸線

 安全保障上の問題になる。

農地と山林は農水省が調査しているが、その他の土地や不動産について国交省は把握していない。これらを規制できないのは問題だ」と話す。

 

(4)「国防動員法」や「国家情報法」発動で善良な在外中国人や中国企業も動員される」

中国では、有事の際に民間人や施設を軍事動員できる「国防動員法」や、中国政府の情報工作活動への協力を義務付ける「国家情報法」があり、海外在住の中国人も対象となる。

北神氏は「善良な在外中国人や中国企業であっても、有事の際に動員される可能性もゼロではない」と憂慮する。

 

(5)「首相は安保問題にも関わらず実態調査や法規制には消極的な姿勢」

(岸田首相)

「特定の行政目的に基づき、一定の範囲で外国人の土地取得を制限することは考え得る。必要かどうかも含めて実情を把握したい」と答弁した。

ただ、「外国人による不動産などの購入実態の把握については国際法上の内外無差別の原則に照らして慎重であるべきだ」と述べ、実態調査や法規制には消極的な姿勢を示した。

 

(6)「日本はGATSの土地取得規制を無視、RCEPでは規制」

世界貿易機関(WTO)の「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)

日本がWTOに加盟する際、米国などと異なり、外国人による土地取得を規制する留保条項を盛り込まなかった。

20年の地域的な包括的経済連携(RCEP)協定には、土地取引に関して「日本国における土地の取得又は賃貸借を禁止し、又は制限することができる」とする留保条項を盛り込んだ。

根拠として1925年の「外国人土地法」を持ち出している。

 

(7)「戦前の「外国人土地法」を改正すべき」

(北神氏)

「シンガポールやインドはWTOルールの例外規定に基づき規制している。また、外国人土地法は戦前の古い法制で、規制対象を定める政令がないため関係官庁も動きづらい。法律を全面改正すべきではないか。投資に関わる経営・管理ビザの取得条件を厳しくする必要もある」と提言した。

 

(8)「土地利用規制法は、事前届け出義務付けだが「売買」規制はしていない」

2022年「土地利用規制法」

安全保障上重要な施設の周辺や国境離島を対象とした土地利用規制法が定められた。対象区域は計399カ所にのぼる。ただ、より重要度の高い施設周辺を指定した「特別注視区域」では一定面積以上の取引に関し、売買当事者に事前の届け出を義務付けているが、「売買」までは規制していない。

 

(9)海外の例

(米国)

外国資本が軍事施設周辺の不動産を購入する場合は審査対象となり、大統領に取引停止権限が与えられている。

(オーストラリア)

農地や商業地、居住地などについて外国人は一定額以上の土地の権利を取得する際には政府への通知や、承認が必要だ。

 

(10)

売買に関して強制力をともなう規制がない日本だが、中国経済が悪化するなかで、さらに警戒を強める必要があるという。

(経済安全保障アナリストの平井宏治氏)

「中国国内の不動産価格が暴落するなか、富裕層は習近平体制下で『沈む船』に乗るよりも、海外の資産を取得しようとしている。

中国では不動産も個人の所有ができないため日本で所有したいという側面もある。

こうした動きが強まれば、経済安全保障のリスクは国家安全保障のリスクになりかねない。国益のために法整備を急ぐべきだ」と指摘した。