所得税減税の効果疑問視 IMF対日経済審査 「日銀は段階的利上げを」 金融緩和の終了促す(24年2月10日 日本経済新聞電子版)

 

IMFの見解の概要

(2)経済が引き続き回復している。緊縮財政へ転換すべき。減税やめるべき

(3)量的・質的金融緩和はインフレ期待を引き上げるといった本来の目的を「すでに成功裏に達成している」

(4)物価上昇率は「25年後半までは物価目標の2%を上回る水準で推移する」との見通し

(5)需給ギャップが解消しつつある。インフレの上振れリスクがここ1年間で顕在化している。賃金が十分上昇していることを確認できている。

 

記事

 

(1)国際通貨基金(IMF)は9日、日本政府が6月に実施する所得税と住民税の定額減税について「成長に及ぼす影響は限定的と予想される」との見解を表明した。

物価上昇率が日銀目標の2%程度に落ち着くと見込み、大規模な金融緩和を終わらせ、段階的な利上げに踏み切るよう促した。

 

 

(2)「日本の財政政策に関する見方」

年に1度の対日経済審査を終え、声明を公表した。

経済が引き続き回復していることから、

 1)歳出抑制など引き締め策に軸足を移すべきだと提起した。

 2)岸田文雄首相が打ち出した所得税減税は債務状況を悪化させると指摘。

 3)2023年11月にまとめた経済対策を「妥当でない」として、ガソリン補助金を低所得層に的を絞った給付金に置き換えるといった具体案を示した。

 4)補正予算を毎年編成する慣行も改めるべきだと訴えた。

 本来の趣旨に沿って「予期せぬ大きな経済ショックが発生した場合」にだけ予算を組むよう求めた。

 

(3)「日本の金融政策」

 金融政策では長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の即時の撤廃を要請。

 「(13年に始めた)量的・質的金融緩和(QQE)を終わらせ、その後は短期政策金利を段階的に引き上げることを検討すべきだ」と主張した。

 YCCとQQEはインフレ期待を引き上げるといった本来の目的を「すでに成功裏に達成している」との考えを明らかにした。

 

(4)「物価上昇率の見通し」

生鮮食品とエネルギーを除いた物価上昇率は「25年後半までは物価目標の2%を上回る水準で推移する」との見通しを記した。日銀は展望リポートで25年度は2%を下回るとみており、日銀よりも強気の見方となる。

予測が実現する場合、日銀は3年間にわたって段階的に利上げをすべきだと訴えた。

 

(5)「需給ギャップ」

名目賃金が上昇し、需要と供給の差である需給ギャップが解消しつつあるとして「インフレの上振れリスクがここ1年間で顕在化している」とも指摘した。

日銀には金融緩和の出口に向けて「明確かつ効果的なコミュニケーション戦略」の必要性を説いた。

賃金が十分上昇していることを確認できていることなどを丁寧に説明することが、円滑な政策転換のカギになると強調した。

 

(6)「日本経済新聞の見解」

米国や欧州はインフレを抑制するため金融引き締めを続け、利下げに転換するタイミングを探る局面にある。

マイナス金利政策は主要中銀で日銀だけが継続しており金融政策の正常化は周回遅れの状況にあるといえる。

日銀はマイナス金利政策の解除を射程圏内に入れ、市場との対話は詰めの段階に入っている。海外の市場関係者も含め、日銀がいつ解除に動くかに関心が集まっている。

(日銀の内田真一副総裁)

8日、マイナス金利を解除した後に「どんどん利上げをしていくようなパスは考えにくく、緩和的な金融環境を維持していくことになる」と述べた。

政策修正後の姿を示すことで、市場の混乱を避けながら金融正常化を進める構えだ。

 

<私見:

1)IMFは、10年以上前にも「日本は消費税率を25%(?)程度まで引き上げるべき」という提言をしていました。おそらく「財政健全化」と「小さな政府」路線がベースに合ったと思います。当時の日本経済は経済成長しているとはいえない時期でしたが、おそらく「規制緩和」すれば成長できるという見方、つまり「サプライザイドの経済学」だと思います。その路線では「雇用保険制度の雇用調整助成金はゾンビ企業を温存し日本経済の労働移動を阻害して経済成長を妨げる要因」という判断と同じものでした。

 

2)しかし、その後、OECDやダボス会議では「米欧諸国の格差拡大」を問題にし経営者は社員の能力形成に資源を割くべきと言う提言がでました。また、「平等は経済成長率を高める」という主旨の論文を掲載するようになりました。

 

3)今回のコロナ禍では日本は解雇する前に雇用調整助成金などを利用し失業の急増を抑え込みましたが、ここが欧米との大きな経済政策の差となりました。

それを見て、おそらく今の日本が人手不足になったのは「雇用調整助成金によって労働移動が滞っている」から社会保障制度を変えるべきとか、「経済の雇用需要が大きい=デフレ脱却済み=緊縮財政」という図式による政策提言になると思います。

 

3)ところがまだ賃金上昇は物価上昇を超えるまでにはなっていません。

次に出てくるのは労働生産性の向上という政策ですが、むかしなら「人減らし」ですが、いまは、リスキリングとかDXとかいう方法が提案されています。

しかし、医療、介護、ヘルス、運送、小売などサービス業での労働生産性向上は「過重労働」でおこなわれていますが、ここに欧米視線のIMFがなにか提案してくれるといいと思います。