春秋(24年2月7日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)「金沢の雪は突然の雷とともに降り始め、稲妻が光り雷鳴がとどろく」。

建築家の谷口吉生さんが以前、本紙連載「私の履歴書」に疎開中の雪の思い出を記していた。当時は小学1年生。東京から祖父母の家に移った谷口さんは、そのたびに「怖い思いをした」そうだ。

 

(2)▼東京などでは雷といえば夏。

しかし金沢など北陸では冬の風物詩となる。雷と一緒に寒ブリの季節が始まり、谷口さんが体験したような雷雪がしばしば訪れる。暖かい対馬海流と大陸からの寒気がぶつかり、大気が不安定になるからだという。夏の雷より高度が低く威力が強い。慣れない子供が怖く感じたのも無理はない。

 

(3)▼おととい東京などを雷雪が襲った。

雷といえば冬という地域は世界でも少ない。珍しい現象に驚いた向きも多かったろう。石川県在住らしい方がSNS(交流サイト)に「北陸の疑似体験ができるのでは」と投稿していた。首都の住民には日本の広さを思い出し、被災地の苦労を改めて想像する契機になったかもしれない。

 

(4)▼民間気象情報会社のウェザーニューズによれば、1年のうち金沢で雷が鳴った日数は、この半世紀で20日前後から約50日へ、およそ2.5倍に増えたという。地球温暖化の影響により雷が生まれやすい期間が長くなったためで、今後は暑さや洪水に加えて落雷対策も強化すべきだと説く。気候変動の影響の大きさがわかる。