アップル「ビジョンプロ」強気の価格戦略 50万円超 アプリや軽量化、AR開拓のカギ(24年2月4日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)「アップルのゴーグル型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「Vision Pro(ビジョンプロ)」」

(2)「2007年発売のiPhone以来の大型新製品」

(3)「ビジョンプロはカメラの画像とCGを合成した拡張現実(AR)を表示」

(4)「アプリ開発者が利点を2つ挙げた」

(5)「2800ドルのパソコンと1500ドルの巨大テレビの代替と思えば安い買い物」

(6)「iPhoneなどで普段使う100万種以上のアプリとの互換性が魅力」

(7)「所有者専用的で家族や友人と共有しにくそう」

(8)「アップルが勝負をかけた」

(9)「ゴーグル型端末は次世代のメガネ型など小型・軽量ウエアラブル端末の先駆け」

 

記事

 

(1)「アップルのゴーグル型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「Vision Pro(ビジョンプロ)」」

米アップルは2日、初のゴーグル型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「Vision Pro(ビジョンプロ)」を米国で発売した。

3499ドル(約52万円)からという強気の価格設定だが、発売日には購入希望者が列をなした。新端末は、スマートフォン「iPhone」に並ぶヒット商品となるだろうか。

 

写真 アップルの「ビジョンプロ」(2日、カリフォルニア州)

 

(2)「2007年発売のiPhone以来の大型新製品」

「ビジョンプロへようこそ!」――販売員の掛け声と同時に店舗に人がなだれ込んだ。

ここは米カリフォルニア州パロアルトのアップルストア。2日は小雨が降っていたが、2007年発売のiPhone以来の大型新製品を体験しようと、開店前から行列ができていた。

端末を予約購入できた記者が午前11時に受け取りに来店すると、1人の販売員が30分ほど初期設定や操作方法について説明してくれた。

 

目の動きで操作

 

(3)「ビジョンプロ」

 1)本体前面のカメラで撮影した現実の風景に、CG(コンピューターグラフィックス)を合成した拡張現実(AR)を表示する。コントローラーは不要だ。

目や指の動き、声だけで画面が操作できる。購入時に「何を見つめているか」を把握する「アイトラッキング(視線追跡)」を設定した。

 2)ゴーグルを装着すると眼前のスクリーンに複数の星が浮かび上がる。

星を目で追い、指でつまむしぐさで選択。

記者は「映画が見たい」と販売員に伝えた。するとアプリを紹介され、画面スクロールなどの操作方法を教えてくれた。動作は驚くほどスムーズだ。

 

(4)「アプリ開発者が利点を2つ挙げた」

 ビジョンプロ専用のアプリを複数開発した日本人エンジニアに競合製品との違いについて聞いた。

「現実世界の映像がよりリアルなこと。目や指での操作がiPhoneのようにサクサク動くこと」だという。

 

(5)「2800ドルのパソコンと1500ドルの巨大テレビの代替と思えば安い買い物」

アップルストアの来店客からも「コントローラーはいらない時代だ」と驚きの声が聞かれた。

消費者の反応も好意的だ。

(早朝から並んだトレーダーのキャシー・コービーさん)

「ビジョンプロを使えば、複数の画面を並べて生産的に必要な情報を得られる。この端末は未来だ!」と興奮気味に話す。

米ウェドブッシュ証券は1月の予約開始から18万台が売れたと見積もる。販売初年度の出荷台数は30万~40万台とも報じられた。

 

仮想現実(VR)やAR端末では首位の米メタ社の「クエスト3」の価格は499.99ドル。ビジョンプロはその7倍だ。

コービーさんは「ビジョンプロだけで2800ドルのパソコン、1500ドルの巨大テレビを代替できると思えばお買い得」と言うが、大衆向け価格とは言い難い。

 

 

 

互換性に期待

 

(6)「iPhoneなどで普段使う100万種以上のアプリとの互換性が魅力」

アップルの強気の価格戦略にもかかわらず、ビジョンプロには熱視線が集まる。その理由は、iPhoneなどで普段使う100万種以上のアプリとの互換性があり、日常生活にすぐ使えるとの期待があるためだ。

アップルはコンテンツ力でスマホ市場を切り開いてきた。

iPhoneなどにアプリを供給するソフト開発者は3600万前後にのぼる。

ビジョンプロ向けも米ウォルト・ディズニーなど600以上の専用アプリをそろえた。複数のスクリーンでバスケットボールを観戦したり、3D(3次元)の模型を見ながら遠隔会議ができたりする。

 

(7)「所有者専用的で家族や友人と共有しにくそう」

購入者からは「予約や利用にはアップルのIDが必要だ。設定も所有者にパーソナライズされている分、家族や友人と共有しにくそうだ」との意見も聞かれた。

 

(8)「アップルが勝負をかけた」

アップルが1日に発表した23年10~12月期決算は5四半期ぶりの増収増益だった。ただ、世界のスマホ市場は成熟している。持続的な成長には次の柱が不可欠だ。

(ティム・クック最高経営責任者(CEO))

ビジョンプロを「何十年にもわたるアップルのイノベーションで構築された革命的なデバイスだ」と説明し、勝負をかける。

開発中とされる安価な後継機種の動向もビジョンプロの初動がカギを握っている。

 

(9)「ゴーグル型端末は次世代のメガネ型など小型・軽量ウエアラブル端末の先駆け」

米調査会社IDCによると、VRやAR端末の22年の世界販売台数は約880万台と21年比で21%減少している。

次世代のウエアラブル端末はメガネ型などより小型・軽量化の道を歩むだろう。ゴーグル型端末はその基盤となる。現状の課題はその使い勝手だ。スマホのように爆発的な普及には一段の技術進化が求められる。

(シリコンバレー=中藤玲)