南北統一放棄にロシアの影 金正恩氏、政策を転換 対米韓、軍事力に自信(24年2月2日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が韓国との統一政策の放棄を宣言した。

(2)「南北朝鮮の『統一』や『同族』という概念は過去の遺物」

(3)「北朝鮮の国境の南側は「他国」の韓国 統一の相手ではない」

(4)「72年ニクソン訪中のあと北は孤立回避の「南北統一」戦略に」

(5)「韓国と米国に対し緊張と緩和を繰り返し、実利を追求するのが北朝鮮の外交だった」

(6)「韓国の民主主義思想の流入を阻止するために韓国を敵国とみなす思想教育を始める」

(7)「米韓の軍事拠点を核奇襲攻撃する力を持ったから「南北緩和」は不要になった」

(8)「北の軍事力はすでに大韓民国を壊滅させ米国に想像を絶する災いと敗北をもたらすという確信を得た」

(9)「平和維持のために対話でなく軍事的抑止力の重要性が高まった」

 

記事(ソウル=甲原潤之介)

 

(1)北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が韓国との統一政策の放棄を宣言した。

南北の統一事業は進展と停滞を繰り返しつつ50年以上続き、北朝鮮は対米交渉に利用してきた。統一放棄の宣言からは、米韓に対抗する軍事力の整備が順調に進んでいるという自信が透ける。

 

北が目立つ地図

 

(2)「南北朝鮮の『統一』や『同族』という概念は過去の遺物」

韓国メディアが最近、話題にする北朝鮮の「変化」がある。

域内放送の朝鮮中央テレビが映す天気予報の地図だ。以前は朝鮮半島全体が塗りつぶされていたが、最近は北朝鮮側の陸地だけを目立たせた地図に差し替わった。

「『統一』『同族』という概念を除去する」。

金正恩氏は15日の最高人民会議(国会に相当)で表明した。南北対話を担う祖国平和統一委員会など3組織を廃止。「同族の南北朝鮮」は過去の遺物だと断じ、北朝鮮の主権が及ぶ領域を明記する憲法改正を提案した。

 

(3)「北朝鮮の国境の南側は「他国」の韓国 統一の相手ではない」

北朝鮮は韓国を統一すべき相手として他国と区別してきた。

この方針を撤回し、北朝鮮の南側に国境を定めて韓国を「徹底した他国」とする。南北を結んだ鉄道の破壊を指示し、関連の記念塔は撤去した。

 

(4)「72年ニクソン訪中のあと北は孤立回避の「南北統一」戦略に」

統一政策は長年、北朝鮮の国家戦略のカードだった。

振り出しは1972年。金日成主席と韓国の朴正熙大統領が密使を送りあい、南北共同声明を取り交わした。朝鮮戦争で離散した家族の再会事業の契機になった。

韓国中央情報部で交渉に関わった康仁徳(カン・インドク)元統一相は、北朝鮮側の狙いについて著書で「韓国内に平和統一の機運を醸成し、在韓米軍撤退の世論を高める」意図があったと述懐する。

72年はニクソン米大統領が初めて訪中し、毛沢東主席らと会談した年だ。

朝鮮戦争で共闘した中国が米国に接近し、北朝鮮には孤立への危機感があったとされる。

 

当初は融和路線

 

(5)「韓国と米国に対し緊張と緩和を繰り返し、実利を追求するのが北朝鮮の外交だった」

2000年代には金正日総書記が韓国と融和の流れをつくった。12年に朝鮮労働党のトップに就任した金正恩氏も当初はこの路線を引き継いだ。

18年には南北協議をテコにしてシンガポールでトランプ前米大統領との首脳会談にこぎつけた。韓国と米国に対し緊張と緩和を繰り返し、実利を追求するのが北朝鮮の外交だった。

 

(6)「韓国の民主主義思想の流入を阻止するために韓国を敵国とみなす思想教育を始める」

この一方を放棄するという。

韓国の民主主義思想の流入を排し、内部の統制を強める目的だとの解説が多い。韓国統一省によるとエリート層の脱北者の増加がみられる。韓国を敵国だと思想教育する狙いがあるとみられる。

 

(7)「米韓の軍事拠点を核奇襲攻撃する力を持ったから「南北緩和」は不要になった」

別の視点の見方もある。ロシアの影響だ。

北朝鮮は23年11月、3回目の発射で人工衛星を地球の周回軌道に投入させた。5月の失敗時と比べると、ロケット燃料を噴射するエンジンノズルが2つから4つ以上に増えた。

ロシアの支援の形跡を感じ取った軍事専門家は多い。

韓国防衛産業学会の韓●熙(●は大の下に巨、ハン・グォンヒ)企画室長は「北朝鮮はロシアの協力で高度な兵器の見本を得た。開発効率が高まり、自国の軍事力への自信につながった」と推察する。

北朝鮮は対米交渉が決裂した19年以降、固体燃料を使う奇襲型の弾道ミサイルの開発に力を注ぐ。

米軍や韓国軍の拠点を核で奇襲攻撃する力を持てば米韓に対抗できると考えた。米韓に脅威を与えるにはミサイルに加え、高度な偵察技術が不可欠となる。

 

(8)「北の軍事力はすでに大韓民国を壊滅させ米国に想像を絶する災いと敗北をもたらすという確信を得た」

本来、ロシアが北朝鮮に軍事協力する利点は小さい。

だが、ウクライナ侵攻による米欧の経済制裁で兵器が不足する。金正恩氏は23年9月にロシア極東を訪れプーチン大統領と会談。軍需物資の提供と引き換えに衛星発射の支援を得る相互協力に合意したとされる。

ロシアの後ろ盾を得た金正恩氏は最高人民会議で自信をのぞかせた。「戦争は大韓民国を壊滅させ、米国に想像もできない災いと敗北をもたらす。私たちの軍事力はすでにその準備態勢にあり急速に更新されている」

 

(9)「平和維持のために対話でなく軍事的抑止力の重要性が高まった」

北朝鮮が南北統一のカードを放棄したことで、日米韓は北朝鮮を対話のテーブルに引き出すことが一層難しくなる。

外交の選択肢は狭まる。平和維持のために軍事的な抑止力の重要性が高まる。

(ソウル=甲原潤之介)

 

<私見:

金正恩氏の目的は国民の安寧と福祉ではなく「金王朝体制の維持」のほかない。

文在演前大統領は、北の指令に従った労働組合と手を携えて、これだけ時間稼ぎと韓国経済の弱体化で北朝鮮に貢献したにもかかわらず、北朝鮮亡命はなくなった。

つぎは、北朝鮮は、軍事力で韓国を侵略したあと、韓国の経済力をどのように北朝鮮のために利用するか、同時に、日本に軍事的圧力をかけ「賠償金」をしぼりとるのかの2本柱の算段を立てる。

キーは中露を手玉にとれるか>