高知発、勤務医の働き方改革 残業規制4月義務化 大学病院→開業医に「逆紹介」 チーム医療も徹底(24年1月30日 日本経済新聞電子版)

 

記事(編集委員 大林尚)

 

(1)要点

全国の医療機関に厚生労働省が残業規制を義務づける「勤務医の働き方改革」が4月に始まる。

残業時間の上限を過労死ラインの年間960時間、月平均で80時間に抑えるのが主眼だ。

こうしたなかで全国の大学病院や一部の民間病院には、患者への理解を深めておこうと、4月を待たずに医療職の働き方に工夫を凝らす動きが出てきた。

 

 

写真 手術室では熟練医師と若手医師の分業制が軌道に乗っている(高知県南国市の高知大医学部付属病院)

 

(2)(高知大学医学部付属病院(高知県南国市))

県内の開業医などに協力を求め、患者の状態に即した医療サービスの提供体制を地域一体で整えつつある。要諦は「逆紹介」という仕組みだ。

病院内には「逆紹介にご協力をお願いします」などと花崎和弘病院長が呼びかける写真入りのポスターが目立つ。

手術後に症状が落ち着いた患者に対し、自宅近くや希望する地域のかかりつけ医を同院が紹介する仕組みを定着させようとする。

 

(3)病院からの「逆紹介」

患者からみると、主治医が専門医からかかりつけ医に変わるのを意味する。

花崎病院長は「重要なのは医療サービスの質を落とさないことだ」と語る。

 

(4)「チーム医療の徹底」

10時間を超えるような重い外科手術の執刀医の負担をならすために、熟練の指導医が若い医師と分業する体制にした。

医師の指示を前提に自らの判断で診療補助行為をする特定看護師を育成したり、薬剤師・臨床検査技師・管理栄養士など専門職と医師の連携を強めたりもしている。

 

(5)(市内の「近森病院(高知市)」)

医師以外の医療専門職の知見を生かすタスクシェアによって患者のQOL(暮らしの質)を高めた。さらに医師の負担を抑え、病院の収益を向上させている。

「タスクシェア」

一例

術後のリハビリテーションを受けるなど回復期の高齢入院患者などに対する栄養サポートだ。

管理栄養士を中心に、栄養バランスを考慮した食事を増やすことで

 1)患者の栄養状態が改善しリハビリへの意欲が高まる

 2)抗生剤や点滴の投与が減る

 3)定額制の診療報酬を適用している患者の場合、結果として病院の薬剤負担が軽くなり収益が上がる――

という好循環を実現している。

(経営母体である社会医療法人・近森会の近森正幸理事長)

 「病院業務で重要なカギを握るのは、さまざまな医療職がそれぞれの視点で患者に接し、自ら判断して適切に介入すること。そのなかで専門性と提供する医療の質が高まる」と話す。

 

(6)こうしてみると医師の働き方改革は、単に残業時間を減らすことにとどまらない。地域一体の医療機関の連携を促し、タスクシェアを通じて医師と医療職が専門性を発揮できる効果がわかる。

改革が始まると、すぐに医師に診てもらえない問題などが起きる懸念もある。

医療機関経営者は、4月までにどこまで体制が整えられるかが問われよう。患者と家族の意識変革も欠かせない。医師にスーパーマン役を期待する時代ではないのだ。

(編集委員 大林尚)