「データサイエンス×経済の理論・技法」で ビジネスパーソンの育成を目指す ~東京理科大学経営学部ビジネスエコノミクス学科(朝日新聞Thinkキャンパス)

 

https://www.tus.ac.jp/academics/faculty/management/business_economics/

 

2024/01/06

経営、経済の世界では、データ解析や情報分析は不可欠となっている。そうした社会のニーズに対応するため、東京理科大学経営学部では「経営を科学する」をキャッチフレーズに、理工系総合大学ならではの強みを生かした科学的アプローチによる経営教育を行っている。東京理科大学で経営学を学ぶメリットや、これからの社会に求められる人材について、経営学部ビジネスエコノミクス学科の下川哲矢教授に話を聞いた(写真は、グループ研究によるプレゼンの授業。中央が下川教授)。

 

◆数理数量的なアプローチで「経営を科学する」

 

東京理科大学経営学部では、理学・工学の知識に基づく数量的アプローチを積極的に活用し、文理の枠を超えた経営教育を行っている。データや論理性、抽象化などを駆使した「科学的アプローチ」で、経営を取り巻くさまざまな課題を分析・解析し、「創造的に解決できるイノベーションリーダーの育成」を目指している。

理工系総合大学で経営学を学ぶことのメリットについて、ビジネスエコノミクス学科の下川哲矢教授はこう話す。

「当校は理工系総合大学の経営学部ですので、経営学や経済学の中でも科学的にアプローチできる領域に特化して学べるのが特徴です。例えば、これまで金融市場などは株屋さんの直観が頼りという世界でしたが、今は完全に統計学や確率論に基づく世界。そういう意味では、理工系大学で経営・経済を学ぶのは理にかなっていると言えるでしょう。数理数量的なアプローチで解決できることは社会全体でどんどん広がっていて、世の中のニーズも、経営学や経済学の学問体系も変化しているので、「経営学は文系」という通念は今後ますますなくなってくると思います」

 

東京理科大学の経営学部には、「経営学科」「国際デザイン経営学科」「ビジネスエコノミクス学科」の3学科がある。

経営学科

 マーケティングやファイナンス、会計、経営戦略などを学び、経営のプロフェッショナルとしてさまざまな経営課題を解決できる力を培う。

国際デザイン経営学科

 国際・デザイン・デジタルという3領域を融合した学びで、クリエイティブな能力と実践力を育む。

ビジネスエコノミクス学科

 統計学やデータサイエンス、経済学・ゲーム理論、金融工学、意思決定などを学び、多様なデータを活用して意思決定ができるスペシャリストを育成している。

写真 「『経営学は文系』という通念は今後ますますなくなってくる」と言う下川教授

 

◆4つの研究領域を軸に、解析力とデータ分析力を身に付ける

 

3学科の中でも、「ビジネスエコノミクス学科が最も理系の傾向が強い学科で、数理的なアプローチを身に付けたい人に向いています」と下川先生は言う。

高度情報化社会にともない、企業における人材のニーズは変化している。ビジネスエコノミクス学科では、そのような変化に対応し、ビジネスシーンで競争できる人材を育成するため、「統計学・データサイエンス」「金融工学」「ゲーム理論・経済学」「意思決定・心理」という4つの研究領域を軸としたカリキュラムが組まれている。

カリキュラムの特長は、専門科目で学んだ基礎知識を、実際のデータを用いた演習で活用し、理解を深められること。そして、少人数のグループによるPBL学習(課題解決型学習)を取り入れていることだ。1、2年生で経済学と経営学の基礎を徹底的に学び、1年生では数学、2年生ではデータ分析の専門的基礎を学んでいく。

3年生からはゼミが始まり、4つの専門領域から自分が選んだ領域をより深く学び、研究していく。

現在、ビジネスエコノミクス学科には12の研究室があり、経営・経済に関わる意思決定問題に数理モデルを活用する研究や、ゲーム理論を用いて社会現象を解き明かす研究、新たな解析手法の開発に関する研究など、研究室ごとにさまざまなテーマで研究に取り組んでいる。
※2024年度からは14研究室に教員組織が拡充されます。

下川教授は、意思決定論や行動・神経経済学、金融理論を専門とし、人々の意思決定と市場への影響について研究を行っている。例えば金融市場において、「人々の意思決定が価格形成にどう影響するか」「消費者がどのように購入する商品を選ぶのか」「人々の協力行動がどのように形成・維持されるのか」などについて、心理学や脳神経科学を応用した実験的なアプローチで分析を行っている。

「人間の意思決定をモデル化するために、脳や視線のデータをとり、脳のどこが活性化しているかを見る実験を行うこともあります。それらの実験データや実際の市場データを用いて検証し、理論的にモデル化していきます」

学生は経済学や意思決定論など基礎的な学習をした後、それぞれの興味に応じたテーマを決めて研究に取り組む。下川研究室の3年生は、レポート作成や発表の基礎を学ぶために、「日銀グランプリ」に参加するのが恒例だ。「日銀グランプリ」は日本銀行が主催する金融・経済への提言を行うコンテストで、下川研究室ではチームごとにアイデアを出し合ってレポートを作成し、毎年参加している。

 

4つの研究領域から自分の専門性を深めていく

 

◆今後、求められるのは「経営の専門知識」と「データ解析能力」を兼ね備えた人材

 

ビジネスエコノミクス学科の卒業後の進路は情報通信業が最も多く(36.5%)、次いで金融・保険業(15%)、進学(8.6%)と続く。

「10年前は、学生が最も希望する業種は金融系でしたが、現在では情報通信系のシステム開発やコンサルティングの会社が人気です。学生のデータサイエンスへの関心も昔と比べて高まっていて、この10年で進路に関する考えは大きく変化していると思います」

今後、ビジネス社会で必要とされる人材について、下川教授は「経営・経済の専門知識とプログラミングやデータ解析能力を兼ね備えた人」と話す。例えば、金融のシステム開発や運営の仕事に携わりたいのであれば、金融工学や金融市場に関わる専門的知識に加えて、データサイエンスに基づく分析・解析能力が必要となる。また、マーケティングやデータアナリストを目指すなら、消費者行動や市場のメカニズムに関する専門知識を身に付けた上で、ITを活用してデータを統計的に分析する能力が求められる。

「このように、両方の知識と能力を持つ人材を育てることが当科の目標です。プログラミングに興味がある人や、実際にやった経験がある人は、自分の好きなことと専門知識が合致して、より楽しめるのではないかと思います。数理的解析力やデータサイエンスの力で経営・経済、そして社会を変えたいというモチベーションを持つ学生が来てくれることを期待しています」