2月2日 アップル、ゴーグル型端末発売 多数のアプリ、空間で操作(24年1月28日 日本経済新聞電子版)

 

記事(シリコンバレー=中藤玲)

 

写真 ビジョンプロは目の前に大型スクリーンを表示する(アップルの動画から)

 

(1)(米アップル)

初のゴーグル型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「Vision Pro(ビジョンプロ)」を2月2日(日本時間3日)に米国で発売する。

同社にとっては2007年発売のスマートフォン「iPhone」以来の大型の新製品となる。ただ、価格は3499ドル(約50万円)からと高額で、本格普及への道のりは険しそうだ。

 

(2)「ビジョンプロで空間コンピューティングを切り開く」(アップルCEO)

23年6月に米カリフォルニア州の本社で開いた年次開発者会議「WWDC」でビジョンプロをお披露目した。

本体前面のカメラで撮影した現実の風景に、CG(コンピューターグラフィックス)を合成する拡張現実(AR)に対応したHMDだ。

(装着すると)

目の前に巨大なスクリーンが現れ、視界の中に

 ブラウザー(ネット閲覧ソフト)や

 ビデオ通話、

 音楽再生

などiPhoneユーザーが慣れ親しんだ各種のアプリのアイコンが浮かび上がる。

コントローラーは不要で、目や手の動き、声だけで直感的に操作できる。

(ティム・クック最高経営責任者(CEO))

WWDCの基調講演で「(パソコンの)Macがパーソナルコンピューティングを、iPhoneがモバイルコンピューティングを生んだように、ビジョンプロで空間コンピューティングを切り開く」と強調した。

 

(3)「予約はiPhoneの画面ロック解除などの顔認証技術「Face ID」が動作する端末で」

 1)先行発売する米国では西部時間1月19日午前5時に「アップルストア」のアプリ上でオンライン予約が始まった。

 2)予約にはiPhoneの画面ロック解除などに使われる顔認証技術「Face ID」が動作する端末が必要で、パソコンや米グーグルの基本ソフト「アンドロイド」のスマホでは予約ができない仕組みになっている。

 3)予約画面に進むと、アプリの指示に従ってFace ID機能を使って顔や頭部を様々な角度から撮影することになる。頭部の形状や大きさを計測し、ユーザーごとにヘッドバンドの長さなどを調整するためだ。

 

(4)発売日の2月2日にカリフォルニア州の店舗で受け取ることができる予約枠は、予約開始から数分ほどで埋まった。

20分ほどたって注文した分については、3月から順次発送されるという。米ウェドブッシュ証券はすでに18万台が売れたと見積もっている。初年度の出荷台数は30万~40万台との報道もある。

 

(5)「世界のVR・AR端末の販売台数は伸び悩み」

米メタや日本のソニー・インタラクティブエンタテインメントも仮想現実(VR)などに対応するHMDを手がけるが、用途はゲームなどに限られている。

(米調査会社IDC)

VR・AR端末の22年の世界販売台数は約880万台と21年比21%減少し、普及は足踏みしている。

パソコンやスマホなどの新市場を切り開いてきたアップルの参入には、本格普及の起爆剤になるとの期待がかかる。

iPhoneなどのアップル製品には3600万にのぼるソフトウエア開発者がアプリを供給しており、ビジョンプロ向けにも新たな用途を提案するアプリが発明される可能性があるためだ。

 

(6)「約50万円からという価格設定」

競合が手がける売れ筋商品の約7倍の水準だ。

エンターテインメント目的で購入できる消費者は限られる。

(米ブルームバーグ通信)

米ネットフリックスや米ユーチューブ、スポティファイ・テクノロジー(スウェーデン)といった動画・音楽配信大手はビジョンプロ専用のアプリを用意していないと報じた。

 

(7)世界的なインフレやスマホの買い替えサイクルの長期化などで、屋台骨のiPhoneの販売は伸び悩んでいる。

アップルが23年11月に発表した23年9月期通期決算はハードウエア部門の低迷が響き、4年ぶりに減収減益となった。

ビジョンプロを最初に手にするユーザーの反応は、アップルの今後の成長力を左右することになる。

(シリコンバレー=中藤玲)