春秋(24年1月28日 日本経済新聞電子版)
記事
(1)その昔、東京を市電が走っていたころ。
最終電車はそれと分かるように赤いランプをつけたので「赤電」と呼ばれた。
兜町界隈(かいわい)の人々は、この赤電に行き合うと喜んだそうだ。株取引で買い注文に使うのは赤い伝票、通称「赤伝」。縁起のいい色だ、というわけである。
(2)▼大蔵次官や東証理事長を務めた谷村裕氏が、エッセーで紹介している(「兜町の氏神様」)。
証券会社だけでなく、銀行でも入金伝票には一般に赤を用いる。さらには株価ボードも日本は赤で値上がりを表現するケースが大半だ。外国では逆に赤は値下がりの色。日本の全面高は海外の目には一見、全面安に映ることになる。
(3)▼さて、新NISA(少額投資非課税制度)も始まった株式市場である。
年明け以降、日経平均株価は赤色の数字が目立つ。とりわけ今月前半の急上昇ぶりには目を見張った。「買い遅れへの恐怖」。そんな心理を指摘する解説にも納得がいく。日経平均が4桁台に沈んだリーマン危機後を思い起こせば、別世界の趣である。
(4)▼もっとも投資に楽観も油断も禁物だ。
上げ相場でこそシビアな選択眼が問われよう。ちなみに株の売り伝票は「青伝」、終電の1本前は「青電」である。みなが乗るからと焦って駆け込んだら青電だった、では笑えまい。企業は投資家の期待に全力で応え、投資家はそれを厳しく吟味する。
「貯蓄から投資へ」の王道だろう。