和製生成AI勝機はどこに 専門性高め顧客特化型に NEC社長

そこが聞きたい 和製生成AI勝機はどこに 専門性高め顧客特化型に NEC社長 森田隆之氏(24年1月25日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)和製生成AIは日本語処理や文化を理解した提案が得意

(3)パラメーター数は小規模でコンパクトにし企業内サーバーでも使える

(4)米中に依存しすぎないで世界から頼られる能力と可能性がある

(5)自前の半導体ではないが半導体製造企業と協業する方針

■ルール形成 日本の役割

 生成AIを安全に普及させるうえで、「日本文化の謙虚さや思いやりは強みとなる」

 

記事

 

(1)要点

文章や画像を作る生成AI(人工知能)が急速に発達し、経済や社会に大きな影響を与えている。海外勢が先行するなか、日本のIT(情報技術)企業による和製生成AIの勝機はどこにあるのか。NECの森田隆之社長に聞いた。

 

(1)――生成AIの技術開発や普及では、米オープンAIのChat(チャット)GPTなど海外勢が先行しています。

 

和製生成AIは日本語処理や文化を理解した提案が得意

「米IT大手が開発した生成AIは英語を母語に学習している。他の言語にも対応できるが付け足し感が否めない。国内IT企業が開発した生成AIは日本語を中心に学習させている。日本語の処理や文化を理解した提案が得意だ」

「日本語をベースに、(金融や製造業、医療など)顧客に応じて専門業界や知識を学ばせる特化型の生成AIに商機が出てくる。経済安全保障の観点からも和製生成AIは必要だ」

 

(2)――日本企業が強みを発揮できるのはどのような部分ですか。

 

「生成AIへの質問文作成の支援や回答の正確性担保など関連サービスが日本の強みになる。安心して使える環境が必要だ」

 

(3)――NECはどのような戦略で勝ち抜きますか。

 

パラメーター数は小規模でコンパクトにし企業内サーバーでも使える

「欧米の汎用型生成AI

 主に検索で使われる欧米の汎用型生成AIは、性能を示す指標で頭脳の大きさに相当するパラメーター数が大きい。

NEC

パラメーター数は小規模だが、専門分野を効率的に学ぶコンパクトなものを提供する。

企業内サーバーなど性能が限られる機器で動かせるため、顧客は使いやすい。導入費用も抑えられる」

「23年8月にAI研究用スーパーコンピューターを使って開発した生成AIを公開した。すでに国内12社と3つの大学が使い、海外企業とも協業を狙う」

 

(4)――和製生成AIはガラパゴス製品で終わってしまう可能性はないですか。

 

米中に依存しすぎないで世界から頼られる能力と可能性がある

「米国の技術に100%依存することへ抵抗感を持つ国はたくさんある。中国の技術を避ける動きもある。日本はこれから伸びるアジア諸国にも近い。和製生成AIには世界から頼られる能力と可能性がある」

「ITでは最初に優位だった者が最後までその場所にいることはほとんどない。日本ではみんな自信をなくしすぎている。勝つチャンスもある」

 

(5)――AIの性能を高めるため、米IT大手は自ら半導体開発にも注力しています。ハードウエアの面ではどう対抗しますか。

 

自前の半導体ではないが半導体製造企業と協業する方針

「国内で最先端半導体の量産を目指すラピダスに出資している。20年代後半の半導体提供を目指して、協力を検討する」

 

もりた・たかゆき 1983年東大法卒、NEC入社。企業買収の戦略を長年担い、海外事業の経験も豊富。2016年に取締役執行役員常務、21年から現職。大阪府出身、63歳

 

■ルール形成の場 日本勢にも役割(24年1月25日 日本経済新聞電子版)

 

要点

生成AIを安全に普及させるうえで、「日本文化の謙虚さや思いやりは強みとなる」

 

NECはJR東日本や三井住友銀行などへ生成AIを提供し始めた。今後3年間で生成AIに関連した事業の累計売上高を500億円にすることを目指す。

ただ生成AIの脅威は増している。

利用促進には、透明性や安全性の確保が欠かせない。生成AIの規制づくりでは、欧州連合(EU)や米政府が主導し、米IT大手も参画する。

生成AIを安全に普及させるうえで、「日本文化の謙虚さや思いやりは強みとなる」(NEC森田社長)。技術開発でもルール形成の場でも、日本企業はもっと存在感を示せる。

(山田彩未)