春秋(24年1月20日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)宏池会を旗揚げした池田勇人元首相の死後、派閥の集散の行方が大きな関心事となった。「しかし、宏池会は分裂も解消もしませんでした。それは政界の奇蹟(きせき)とも言えるものでした」。1983年刊の同会の25周年記念誌は、団結力を自賛するそんな解説を載せている。

 

(2)▼結束の源は何か。

所属議員の「宏池会こそ保守政治の中核である」という自負だ、と同誌は説く。

のちには様々に分裂を経験することもあったとはいえ、宏池会の名が設立時のまま使われ続けてきた点からも、一定の「ブランド」と求心力を保ってきたのは間違いない。その名門派閥が、突如として断絶する流れになった。

 

(3)▼岸田首相が宏池会(岸田派)解散を決めた。

東京地検特捜部は昨日、同派を含む裏金関係者を立件した。派閥への思い入れは人一倍とされる首相だが、厳しい展開に渾身(こんしん)の賭けに出たか。うねりは広がり安倍派、二階派も同調した。収まらぬ批判への危機感は時に想定を超え事態を急変させる。政界のダイナミズムであろう。

 

(4)▼もっとも課題は山積みだ。

派閥解消の実効性は。予想される混乱をどうさばく。政治資金改革も断行せねばならない。裏金問題は自民党のあり方そのものを問う第2幕に突入するのだろう。首相の一手は歴史的英断になるか、あるいは窮余の奇策か。党として問題にどれだけ真摯に向き合うかで、その答えは変わってくる。