「スウェーデンで個人献金は電子決済」…〝チョコ2箱でクビ〟の国家 立教大・清水謙氏(24年1月19日 産経新聞オンライン無料版)

 

記事(黒沢 潤)

 

写真 立教大法学部の清水謙兼任講師

 

 

(スウェーデンの政治情勢に詳しい立教大法学部の清水謙・兼任講師)

産経新聞のインタビューに応じ、同国で政治家への個人献金は電子決済で行われ、政治家や公務員の公金の使い道には厳しい国民の視線が注がれていると語った。

 

裏金、簡単に作れぬ仕組み

 

(1)ーースウェーデンで個人献金はどう行われているのか

「3種類あります。

 1)クレジットカードを利用した献金だ。これはかなり早い時期から普及した。

 2)スマートフォンでモバイル送金するSwish(スウィッシュ)を利用した献金。大手銀行6社が共同開発し、2012年から稼働している。事前にアカウントを作る必要があり、『バンクID』をもらう。そして、国民各自に割り当てられている『パーソナル・ナンバー』(日本のマイナンバーに相当)を口座と携帯アカウントに紐づけることになる。

 3)政党から電子メールで送られるデジタル請求書による銀行振り込みだ。いずれも現金は介在せず、匿名ではできない」

 

(2)「基本的に政治家本人ではなく、党に振り込む形をとる。

政党のホームページを開くと、『3つの方法で』と書かれている。スウェーデンではふだん、政治家は個人ではなく党単位で動く」

「献金に上限はないが、2万4150スウェーデン・クローナ(約33万円)を超えると、名前が公表される仕組み。スウェーデンで現金使用率は8%なので、何をどう使ったかほぼ分かる。だから裏金も簡単に作れない。キャッシュレス社会が後押ししている形だ」

「企業献金は法律で禁止されていないが、政党が企業から献金を受け取らないと言っているため、企業献金の文化はない。富裕層や企業に支持されている与党・穏健連合党も、企業献金を断っている」

 

マイレージも国が管理

 

(3)--スウェーデンで2014年、政党財政透明化法が制定された

 

「党財政は長年、〝ザル〟状態だった。欧州連合(EU)や欧州安全保障協力機構(OSCE)から、『なぜ政党財務は不透明なのか』と言われ続け、結局は外圧で動くことになった」

 

(4)--スウェーデンでは、政治家の公金の使い道にも厳しい視線が注がれる

 

「政権は中道右派の穏健連合党▽キリスト教民主党▽自由党ーからなるが、どの政党も会議出席といった公務、地元に帰る際の旅費の支出といった公金使用に関し、厳しい態度で臨んでいる。左派のスウェーデン社会民主党が特別に厳格というわけではない。

議会内に監視機関があり、公金を何に使ったかを詳細に報告している。

クリーンで、『ガラス張り』の政治をやっていると感じる。政治家も官僚も、公金使用のための専用クレジットカード発行を国に申請することもできる。

航空機を利用した際のマイレージも国が管理し、個人は勝手に使えない。カードのポイントも勝手に使えない。税金が高いので、国民の関心が高いのかもしれない」

 

(5)〝チョコレート事件〟

 

「公金不正使用のニュースはそんなにないが、女性初の首相として就任することが期待されたモーナ・サリーン副首相の公金不正使用事件(約50万円、1995年)は今も語り草だ。彼女は私的に服を購入し、レンタカーも借りた。もともとお金の使い方がずさんだったことと、トブレローネ社のチョコレートも2箱購入していたことが国民の関心を引き、チョコ2箱で首が飛んだ〝トブレローネ事件〟と呼ばれている」

「スウェーデンの政治家の歳費は月額7万5500スウェーデン・クローナ(約105万円)。政治家だけでなく公務員は公人であり、彼らの給与や借入金(住宅ローン)などは公開情報として調べることができる」

 

(6)--スウェーデンで贈収賄事件は数多くあるか

 

「贈収賄事件はゼロでなく、地方の政治や行政で時折起こる。

賄賂という言葉はスウェーデン語で『ミュートル』と言って、とてもネガティブな響きを持つ。国民の間で〝贈収賄は先進国の人間のやることではない〟という意識が強い。

政権にしても、社会にしても、『公平、公正であるべきだ』との意識は強い。

贈収賄に関する国会のガイドラインがあり、『贈収賄と思われることはしていけない、リスクは取るな、出張先でお土産をもらった場合、贈賄の可能性あると認識し、受け取らないように』などと書かれている。

キーホルダーやペン1本ぐらいは問題にならないが、お土産のようなものだと、議会に『お土産登録』をする必要がある。議会に属するものだからだ」

 

(7)〝お上意識〟なし

 

「国民には、政治家は所詮、国民の代表という意識しかない。『国会議員の先生』というのはまずない。彼らは自分たちに代わって仕事をしている、という感覚。日本ではお上意識が強い。スウェーデンでは同じ市民、という意識を持っている。国会議員はいばらない上、特権という特権もない」

 

(8)--スウェーデン政治の問題点は

 

「政党が収入を得るため、宝くじを販売しており、最近、問題になっている。富くじを一番売っているのはスウェーデン社会民主党だ。宝くじと物品の販売が党収入の45%にもなる。スウェーデンでは宝くじに加え、競馬、カジノゲームも結構人気で、国の財源にもなっている。政治が賭け事で支えられていることには批判もある」(聞き手 黒沢潤)

 

■しみず・けん 

スウェーデン出身で大阪育ち。大阪外国語大外国語学部スウェーデン語専攻卒業。東京大大学院総合文化研究科で修士号取得(欧州研究)。同博士課程単位取得満期退学。立教大法学部兼任講師。専門はスウェーデン政治外交史・国際政治学。共著に『包摂・共生の政治か、排除の政治か|移民・難民と向き合うヨーロッパ』(明石書店)など。