(地域の風) 移動トイレ、被災地に集結(24年1月18日 日本経済新聞電子版)

 

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全国の自治体が所有する移動式のトイレトレーラーが能登半島地震の被災地に集結している。

導入を支援するNPO法人「助けあいジャパン」によると、16日現在で石川県七尾市や輪島市、珠洲市、能登町の4市町に16台を派遣。

災害時の相互派遣を原則に移動トイレのネットワークを広げており、さらに派遣の申し出を受け入れている。

 

写真 4日深夜に輪島市の市立輪島病院に着いた千葉県君津市のトイレトレーラー(千葉県君津市提供)

 

(2)一番乗りの京都府亀岡市がトイレトレーラーの支援に向かったのは地震発生翌日の2日午後2時。

市長同士の交流があった七尾市から直接依頼があり、即断で派遣を決めた。通行可能な道をネットで探りつつ、同日午後11時過ぎに到着。その日のうちに利用を始めた。

その後も群馬県大泉町、大阪府箕面市など支援の申し出が続いた。

 

(3)「みんな元気になるトイレ」と名付けられたトレーラーには4つの個室の洋式便座がある。ソーラーパネルにより停電・断水時でも最大1500回使用できる。普通自動車によるけん引が可能なほか、備え付けのシャワーで衛生を維持する。トイレ設置後は現地で注水やくみ取りを続ければ長期間稼働できる。

導入にかかる費用は為替動向などで変動するがおよそ2500万円。国の「緊急減災・防災事業費」を利用すれば7割の負担を軽減できる。さらにふるさと納税型のクラウドファンディングを使うことで、自治体負担はほぼゼロとなる。

 

(4)千葉県君津市は企業や市民からの寄付で導入費用の半額以上を集めた。

同市は房総半島などに甚大な被害をもたらした2019年9月の台風15号で、静岡県富士市と西伊豆町、愛知県刈谷市から派遣を受けた。その「恩返し」の意味からも新たにトレーラーを導入し、今回の派遣プロジェクトに参加した。

 

(5)

今回の地震で災害関連死を防ぐキーワードとして避難所の関係者や専門家が指摘するのは「TKB+W」。トイレ、キッチン(食事)、ベッド(安眠)とウオーム(暖房)が欠かせない。

トイレを我慢して水分を控えると生活習慣病などの持病の悪化などで災害関連死を招く恐れもある。

阪神大震災では避難所となった学校で教師が毎日のように校庭に穴を掘った。東海地震対策で静岡県が備蓄していた大量の仮設トイレも神戸市などへ運ばれた。阪神大震災からちょうど29年を迎えた現在も、被災者向けのトイレの問題は大きな課題として残る。

洗浄用水の補給に飲料用の給水車が使えなかったり、タンクの凍結防止など寒冷地対策が必要だったりと、ネットワークが始まって最初の巨大災害でもあることから様々な課題も浮かび上がる。

現在でも派遣を必要とする集落がある。助けあいジャパンの石川淳哉共同代表理事は「まだまだ台数が足りない。今回の教訓を生かし、さらにネットワークを充実させる必要がある」と話している。 

(和佐徹哉)