アジア、偵察衛星の増強競う 安保環境変化に対応 周辺国の軍事動向監視(24年1月18日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)要点「アジア各国が偵察衛星を増強している」

(2)「偵察衛星 上空500kmの宇宙空間から地上を撮影」

(3)「中国は136基の偵察衛星 写真撮影や電子情報の傍受」

(4)「北朝鮮は米国空母を監視のため」

(5)「インドは16基」

(6)「日本は情報収集衛星4基とデータ通信衛星1基」

(7)「韓国は12月に偵察衛星」

(8)「韓国の偵察衛星は米スペースXのロケットを使って打ち上げ 1発98億円」

(9)「日本は低価格の超小型衛星で複数連携・常時監視の「衛星コンステレーション」の構想」

(10)「日本は災害など民生目的にも活用」

 

記事(安全保障エディター 甲原潤之介)

 

(1)要点「アジア各国が偵察衛星を増強している」

(中国の偵察衛星)

 保有数は3年前に比べ2倍に増えた。米軍の監視が主目的で、北朝鮮も追随する。

日本や韓国も打ち上げを加速する。安全保障環境の複雑化を背景に、宇宙空間を使って周辺国の軍事動向を把握しようとする動きが活発になっている。

 

 

 

(2)「偵察衛星 上空500kmの宇宙空間から地上を撮影」

上空500キロメートル前後の宇宙空間から地上を撮影する。

兵力の移動やミサイル発射の準備状況、艦艇の動きなどを把握する。軍事衝突が発生した際、目標を精密に打撃するのに役立つ。

 

(3)「中国は136基の偵察衛星 写真撮影や監視用55基電子情報傍受用81基」

(英国際戦略研究所(IISS)の報告書「ミリタリー・バランス」)

中国は2022年時点で136基の偵察衛星を稼働させている。19年時点では66基だった。写真を撮影する「ISR衛星」に加え、「エリント」や「シギント」と呼ばれる電子情報の傍受に使うタイプも増やしている。

米国防総省の23年10月の報告書によると、中国の偵察衛星は朝鮮半島や台湾、インド洋を監視する。同省は「中国軍がインド太平洋地域で米軍や同盟軍の動きを追跡するのを助けている」と分析した。

 

(4)「北朝鮮は米国空母を監視のため」

中国を模倣するのが北朝鮮だ。米軍の空母をリアルタイムに監視する狙いで、核・ミサイルと並ぶ軍事技術目標に偵察衛星を掲げる。23年に3回の打ち上げを試みた。うち2回は失敗したものの、11月に衛星を地球の周回軌道に乗せた。

軍事用途の偵察衛星は、撮影した写真が数十センチメートルの物体が判別できる解像度を備えるとされる。米国がウクライナに提供した衛星画像は、初期のウクライナ軍の防衛戦に役立ったもようだ。偵察情報は実際の戦闘で重要な要素となっている。

 

(5)「インドは16基」

中国と対立するインドは「RISAT」と呼ぶ衛星を相次ぎ発射している。IISSによると19年時点の12基から16基に増やした。

 

(6)「日本は情報収集衛星4基とデータ通信衛星1基」

中国や北朝鮮を警戒する必要性の高まる日本や韓国も体制拡充を急いでいる。

日本は04年、安全保障や災害対応に使う「情報収集衛星」の活用を始めた。現在は情報収集衛星4基とデータ通信衛星1基を使い日本や周辺を監視する。これを29年度に合計9基に倍増させる計画だ。12日にも三菱重工が情報収集衛星を搭載した大型ロケット「H2A」の打ち上げに成功した。

 

(7)「韓国は12月に偵察衛星」

韓国は23年12月、初めて偵察衛星を打ち上げた。国防省が直接管理し、25年までに5基を稼働させて北朝鮮を監視する。防衛事業庁によると、24年4月に2号機、11月に3号機を立て続けに打ち上げる計画だ。

 

(8)「韓国の偵察衛星は米スペースXのロケットを使って打ち上げ 1発98億円」

偵察衛星の運用はコストがかかる。日本政府は情報収集衛星の開発や運用に年間800億円の予算を計上する。

米スペースXのホームページによると、ロケット「ファルコン9」の標準打ち上げ費用は6700万ドル(約98億円)という。

韓国の偵察衛星は米スペースXのロケットを使って打ち上げた。

韓国軍は独自にロケット開発を進める一方、民間技術を活用して時間を節約した。同手法により偵察衛星の打ち上げが簡易になり、偵察能力の競争が途上国に広がる可能性もある。

 

(9)「日本は低価格の超小型衛星で複数連携・常時監視の「衛星コンステレーション」の構想」

運用する衛星の基数を増やせば撮影の頻度が高まり、監視の精度が上がる。

一方、監視される側は奇襲能力の向上を進める。

北朝鮮は固体燃料を用いて迅速に発射できるミサイルや潜水艦の開発を急ぐ。衛星や偵察機による監視の目をかいくぐる技術を高め、防御側にさらなる投資を強いる。

一方で各国は、防衛予算が無尽蔵に拡大しないよう、効率よく偵察能力を高める必要がある。日本や韓国は低価格の超小型衛星を複数連携させて常時監視する「衛星コンステレーション」の構想も持つ。

 

(10)「日本は災害など民生目的にも活用」

日本は衛星を防衛に加え災害時の情報収集など様々な用途に活用し、投資効率を高める。1日の能登半島地震の後も情報収集衛星を使って被害の状況把握を進めた。

限られた財源を有効に生かすため、軍事目的での宇宙開発の蓄積を学術研究や産業発展に生かす取り組みも重要になる。

韓国は政府内に「宇宙航空庁」を新設する法案を国会で可決した。米航空宇宙局(NASA)を参考にし「韓国版NASA」と銘打つ。

(安全保障エディター 甲原潤之介)