避難場所5000カ所に津波リスク 日経調査、5メートル以上浸水は700カ所 代替施設の確保必要(24年1月18日 日本経済新聞電子版)
記事
(1)要点 「約700カ所で5メートル以上浸水する可能性」水没ではない?
自治体指定の避難場所の少なくとも約5000カ所が、大規模な津波で浸水する恐れがあることが日本経済新聞の調べでわかった。
能登半島地震では津波に弱い避難場所が顕在化した。
同様の避難場所は西日本に多く、約700カ所で5メートル以上浸水する可能性がある。自治体と国が一体となってリスクを軽減する取り組みが欠かせない。
(2)1日の能登半島地震では2011年の東日本大震災以来となる大津波の警報が発令され、地震と津波が同時発生する中での緊急避難の困難さが浮き彫りになった。多くの沿岸部の避難場所で浸水が懸念され、住民は難しい判断を迫られた。
(3)「浸水の恐れがある区域にある避難所は5000カ所」(日経)
各地域で試算された最大クラスの津波を前提とする「津波浸水想定区域」の公開データを活用し、全国の「指定緊急避難場所」(総合2面きょうのことば)との重なりを調べた。
垂直避難が可能な津波用(約4万カ所)を除く7万3506カ所の避難場所のうち、4989カ所(6.8%)が浸水の恐れがある区域内にあった。浸水の深さは、2569カ所で1メートル以上5メートル未満、727カ所で5メートル以上となる可能性がある。
(4)避難場所の代表例は学校や集会所など公共施設だ。
(災害情報論を専門とする東京大の関谷直也教授)
「住民への周知は十分でなく、避難場所が洪水や地震など災害別に指定されていることへの理解も広がっていない」と話す。
(5)「浸水の恐れがある避難場所」
沿岸地域が広大な北海道(570カ所)を除けば西日本に多く、大阪府が539カ所、広島県が506カ所だった。今回の津波があった石川県は33カ所がリスクの高い区域内にあった。
「大阪市の520カ所は市町村別では突出」
大阪市は南海トラフ地震があった際に津波の被害が懸念されている。市危機管理室は「地震にも津波にも対応できるのがベストだが、安全な避難場所の確保に苦労している」と説明する。
「静岡県河津町は「津波指定」避難所はなし」
南海トラフ地震で最大13メートルの津波が見込まれる静岡県河津町は浸水想定区域内に7カ所の避難場所を設定するが、いずれも「津波指定」ではない。
同町の防災担当者は「(区域外にある)津波用避難場所から遠い人は付近の山など少しでも高いところに逃げてもらうしかない」と話す。
(6)「市町村には大規模な津波への対策が義務づけられている」災害対策基本法
災害対策基本法では、災害対応は地域の実情に詳しい市町村が担うと規定する。
東日本大震災を機に津波への備えの強化を促す法律も制定された。
市町村には大規模な津波を想定し、避難場所や一時的に生活する避難所を指定したり、地域防災計画を作成したりする義務がある。
(7)「津波避難タワー」の設置や「津波避難ビル」指定
(地域防災に詳しい京都大の矢守克也教授)
「地震と津波の同時発生など実際の災害を意識して対応している市町村は少ない」と話す。
一部の市町村では「津波避難タワー」の設置や民間の「津波避難ビル」への指定により安全な避難場所を確保する動きが見られる。代替施設を探し続ける努力は欠かせない。
政府の地震調査委員会は大規模な地震がいつどこで起きてもおかしくない状況と警告する。避難場所の整備や住民への周知といった市町村の防災対策が機能するように、国や都道府県も効果的な制度づくりや財政支援などで後押しする必要がある。
(都市問題エディター 浅沼直樹、矢野摂士、田中健斗)