迫真 育て新興 銀行が挑む2 「メガが手出せない分野に」(24年1月17日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)要点 「GMOあおぞらネット銀行開業から5年で法人10万口座」

(2)「フルバンキングではなくITを使って特化 中小・新興企業に融資」

(3)「実績のない創業初期の企業に融資するためにあらかじめITで企業の入出金分析」

(4)「ライバルの住信SBIネット銀行は融資要請前から金利など融資条件を知らせる」

(5)「メガバンクもAIで企業の事業の収益性評価システム導入」

(6)「ネット銀行が新興企業を誕生させて地銀やメガ銀にバトンタッチ」

(7)「不良債権」

 

写真 GMOあおぞらネット銀はスタートアップ融資を戦略のど真ん中に置いた

 

(1)要点 「GMOあおぞらネット銀行開業から5年で法人10万口座」

「なんと法人口座累計数が10万口座を突破いたしました!」。

2023年9月22日、GMOあおぞらネット銀行会長の金子岳人は全行員に向けたメールで喜びをあらわにした。ネット銀の立ち上げからわずか5年での大台到達だった。

 

(2)「フルバンキングではなくITを使って特化 中小・新興企業に融資」

後発組のネット銀として同行が掲げた柱の一つが「スタートアップ向け銀行No.1」。

既にネット銀同士の競争が激化していた住宅ローンなどではなく、中小・新興企業に目を付けた。金子は「フルバンキングをやる気はなく、IT(情報技術)を使って従来の銀行が手を出せない分野に特化すべきだと考えた」と語る。

 

(3)「実績のない創業初期の企業に融資するためにあらかじめITで企業の入出金分析」

銀行の常識では、実績のない創業初期の企業に融資するのは至難の業。

新機軸

 1)企業の入出金のキャッシュフローを分析するシステムを導入した。

 2)担保や決算書を求めず、最短2営業日で融資できるようにした。

 3)「登記完了前から手続き始めて創業後すぐ口座」

  スタートアップの要望に応えるため、登記完了前に手続きを進めて創業後すぐ口座をつくるサービスも始めた。

 23年11月にはアルトア(東京・千代田)と提携して人工知能(AI)で審査を高速化して3000万円を上限に貸す制度を設けた。

 

(4)「住信SBIネット銀行は融資要請前から金利など融資条件を知らせる」

 ライバルの住信SBIネット銀行は企業から融資の要請が来る前に、AIを使って顧客口座の収支情報を分析し、あらかじめ金利などの条件をメールで知らせる「プッシュ型」融資を開発。

2500万円を借りた都内の新興企業経営者は「日本政策金融公庫を使うしかないと思っていたが、面倒な書類もなしで借りられた」と話す。

 

(5)「メガバンクもAIで企業の事業の収益性評価システム導入」

 1)三菱UFJ銀行

  スタートアップ企業とシステムをつなぎ、収益などをAIで分析して融資する手法を23年度中に国内で導入する方針だ。

 2)みずほ銀行

  AIで事業の収益性を評価して融資するファンドを立ち上げた。

 

(6)「ネット銀行は新興企業を誕生させて地銀やメガ銀にバトンタッチ」

 創業期はネット銀行から資金を調達し、次第に地銀やメガバンクとの取引を増やしていくという成長のルートも整いつつある。

ある医療系ベンチャーの経営者は「手数料水準に魅力を感じてネット銀を使ってきたが、会社が成長すると担当者がついて金利交渉ができる地銀で借りた方がよいと考えた」と話す。

 

(7)「不良債権」

2000年代に自動審査システムを導入した新銀行東京は不良債権の山を築いて破綻した。現在のAI審査は利用データや分析の精度で当時と大きく異なるが、審査モデルを磨き続けることが課題となる。(敬称略)