「砂川事件」巡る国賠訴訟、元被告らの請求棄却…当時の最高裁長官に違法行為なしと判断(24年1月17日 読売新聞オンライン無料版)

 

記事

 

(1)1957年に東京都砂川町(現・立川市)の米軍基地で起きた「砂川事件」を巡り、最高裁長官が米国側に裁判の見通しを伝えたことで公平な裁判を受ける権利を侵害されたとして、元被告らが国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(小池あゆみ裁判長)は15日、請求を棄却した。

 

(2)元被告ら3人は、米軍基地に立ち入ったとして、日米安全保障条約に基づく刑事特別法違反で罰金刑になるなどした。

 

(3)最高裁大法廷で裁判長を務めた田中耕太郎・最高裁長官(当時)が判決前、駐日米大使らに審理の予測などを伝えたとする文書が2008~13年に見つかったことから、「裁判情報を漏えいした」として、計約20万円の慰謝料などを求めて19年に提訴していた。

 

(4)この日の判決は、長官が大使らとの会話で判決時期の予測などに言及したことが推認されるとしつつ、「評議や判決の内容まで伝えていた事実は認められない」と指摘。長官の行為に違法性はないと判断した。

 

■砂川事件 ウィキペディア

東京都北多摩郡砂川町(現・立川市)付近にあった在日米軍立川飛行場の拡張を巡る闘争(砂川闘争)における一連の訴訟である。

特に、1957年(昭和32年)7月8日に特別調達庁東京調達局が強制測量をした際に、基地拡張に反対するデモ隊の一部が、アメリカ軍基地の立ち入り禁止の境界柵を壊し、基地内に数メートル立ち入ったとして、デモ隊のうち7名が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(現在の地位協定の前身)違反で起訴された事件を指す。

全学連も参加し、その後の安保闘争、全共闘運動のさきがけとなった学生運動の原点となった事件である。

 

1959年第一審(判決)

東京地方裁判所(裁判長判事・伊達秋雄)は

「日本政府がアメリカ軍の駐留を許容したのは、日本国憲法第9条2項前段によって禁止される戦力の保持にあたり、違憲である。したがって、刑事特別法の罰則は日本国憲法第31条(デュー・プロセス・オブ・ロー規定)に違反する不合理なものである」とし、全員無罪の判決(伊達判決)。

最高裁判所判決

1959年12月最高裁判所(大法廷、裁判長・田中耕太郎長官)

同年12月16日「憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない。したがって、アメリカ軍の駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。

他方で、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」(統治行為論採用)として原判決を破棄し地裁に差し戻した。

1961年差戻し審と確定判決

東京地裁(裁判長・岸盛一)は1961年(昭和36年)3月27日、罰金2,000円の有罪判決を言い渡した。

この判決につき上告を受けた最高裁は1963年(昭和38年)12月7日、上告棄却を決定し、この有罪判決が確定した。

 

最高裁判決の背景

機密指定を解除されたアメリカ側公文書を日本側の研究者やジャーナリストが分析したことにより、2008年(平成20年)から2013年(平成25年)にかけて新たな事実が次々に判明している。

まず、東京地裁の「米軍駐留は憲法違反」との判決を受けて当時の駐日大使ダグラス・マッカーサー2世が、同判決の破棄を狙って外務大臣藤山愛一郎に最高裁への跳躍上告を促す外交圧力をかけたり、最高裁長官・田中と密談したりするなどの介入を行なっていた[2]。跳躍上告を促したのは、通常の控訴では訴訟が長引き、1960年(昭和35年)に予定されていた条約改定(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約から日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約へ)に反対する社会党などの「非武装中立を唱える左翼勢力を益するだけ」という理由からだった。

そのため、1959年(昭和34年)中に(米軍合憲の)判決を出させるよう要求したのである。

 

田中は駐日首席公使ウィリアム・レンハートに対し、「結審後の評議は、実質的な全員一致を生み出し、世論を揺さぶるもとになる少数意見を回避するやり方で運ばれることを願っている」と話したとされ、最高裁大法廷が早期に全員一致で米軍基地の存在を「合憲」とする判決が出ることを望んでいたアメリカ側の意向に沿う発言をした。

有権解釈への影響

田中耕太郎の判決は「わが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである」としている。

この判決は直接的には外国軍隊の日本国内への駐留の合憲性について判断したものである。「わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然」とし、「外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しない」と結論している。

ただし、本判決は、駐留米軍に関する事案であったこともあり、日本独自の自衛力の保持について憲法上許容されているか否かは明らかにしていない。砂川事件最高裁判決の判決文は憲法9条2項について「その保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいう」と述べている。