避難所、環境悪化の一途 自主避難先は支援届かず…急がれる2次避難(24年1月12日 産経新聞オンライン無料版)

 

記事の概要

(1)「1次避難先の避難所、自主避難先、2次避難所の事情」

(2)「避難所167カ所のうち地震前から市の指定は48カ所、ほかは自主避難先」

(3)「指定避難所は一定の収容基準がある、自主避難先は身近な人で集まるケースが多い」

(4)「発生直後の避難所は満員で今はビニールハウスに避難」

(5)「自主避難先 食料や生活用品は知人頼み、自治体と連絡もない」

(6)「多くの避難所は断水や停電でごみや排泄(はいせつ)物などの処理ができない」

(7)「ホテルや旅館など2次避難所 金沢市内に1.5次避難所」

(8)「今後多くの被災者を2次避難先に順調に移送できるかも課題」

(9)「2次避難の次の課題は仮設住宅やみなし仮設住宅など住まいの確保」

(10)「仮設住宅やみなし仮設住宅は災害救助法に基づき2年間無料で入居」

(11)「仮設住宅着工、県営市営住宅確保」

(12)「個別の事情考慮した対応を」専門家

 

<私見:

「個別の事情考慮した対応を」と同時に「個人や家庭がどのように震災対応してきたか」「それが役に立ったか」も調べて欲しい。耐震基準をクリアするというのは一発目の大きな揺れでは傾いてもぺしゃんと潰れないということ、でも傾いてると2発目の大きな揺れでは押しつぶされているようです。>

 

記事(藤谷茂樹、小川恵理子、鈴木文也)

 

写真 近隣住民が避難所として身を寄せるビニールハウス=1月8日、石川県輪島市

 

(1)「1次避難先の避難所、自主避難先、2次避難所の事情」

 1)避難所

  1次避難先として多くの被災者が過ごす避難所で生活環境の悪化が懸念されている。

自治体指定の施設では混雑や不衛生なトイレなどの問題があり、これを敬遠して私設の「自主避難所」にとどまる人も目立つ。

 2)自主避難先

  物資や医療支援が行き届かないといったデメリットもあり、

 3)国や県は「2次避難所」として宿泊施設を活用する準備を加速させている。

 

(2)「避難所167カ所のうち地震前から市の指定は48カ所、ほかは自主避難先」

多数の家屋が倒壊するなど甚大な被害に見舞われた輪島市は、11日時点で約1万500人が避難。

市が把握する避難所は167カ所だが、地震前に市が指定していたのは48カ所に過ぎない。ほかの100カ所以上は全て自主避難先だ。

 

(3)「指定避難所は一定の収容基準がある、自主避難先は身近な人で集まるケースが多い」

指定避難所 

 一定人数を収容できる規模などの基準があり、市町村が主に学校などを指定している。被災者は体育館に布団を敷いて過ごすが、プライバシーを保つ段ボールなどの仕切りはほぼない。

自主避難先

 プライバシー面については同様の状況だが、地域の顔なじみなど身近な人で集まるケースが多い。市の担当者は「道路状況や通信環境が悪く、地域で避難生活を送っているようだ」と説明する。

 

「人がいっぱいで」

 

(4)「発生直後の避難所は満員で今はビニールハウスに避難」

輪島市稲屋町のビニールハウスには、高齢者ら約10人が自主避難する。近くに自宅がある的場正美さん(77)は「発生直後に避難所に行ったが、人がいっぱいで、ここに避難するしかなかった」と明かす。

 

(5)「自主避難先 食料や生活用品は知人頼み、自治体と連絡もない」

食料や生活用品は知人が届けてくれたが、自衛隊などによる物資の支給や医療関係者の訪問はまだない。

自治体職員と意見交換もできておらず、ベニヤ板の上に布団を敷いて眠る生活が続く。的場さんは「誰にも頼れず自分で自分の命を守るしかない。一体どうしたらいいのか」とこぼした。

物資の分配や情報伝達といった支援は、自主避難先だと、どうしても指定避難所に後れを取る。市は避難者集約に向けて5日に県立輪島高校を新たな避難所として開設。

体育館や教室を開放したが、9日時点の収容人数は約370人にとどまり、自主避難先の根本的な解消にはつながっていない。

 

被災者移送も課題

 

(6)「多くの避難所は断水や停電でごみや排泄(はいせつ)物などの処理ができない」

多くの避難所では断水や停電が続いている。ごみや排泄(はいせつ)物なども処理できず、衛生面は悪化する一方だ。

 

(7)「ホテルや旅館など2次避難所 金沢市内に1.5次避難所」

環境改善や災害関連死の防止のため、ホテルや旅館といった2次避難所が待望されており、県は11日時点で255施設を確保。高齢者ら要配慮者が2次避難所に移るまでの一時滞在先として金沢市内の運動施設に「1・5次避難所」も設けた。馳浩知事は「避難所の劣悪な環境を少しでも改善したい」としている。

 

(8)「今後多くの被災者を2次避難先に順調に移送できるかも課題」

被災地の避難者

 県内全体で約2万4千人に上る。県が用意した2次避難先での受け入れ可能数は約6800人だが、政府は石川、富山、福井、新潟の4県で週内には計1万人分を確保できる見通しを示した。

 2次避難先の宿泊施設に入ったのは11日現在で227人とまだ少なく、今後多くの被災者を2次避難先に順調に移送できるかも課題だ。

 岸田文雄首相は11日、能登半島地震の非常災害対策本部会議で、「より安全な環境への移動を検討することが重要だ」と述べ、避難先への移動手段の確保も指示した。

 

住まい確保が本格化

 

●図解 被災地から避難の流れ

 

 

(9)「2次避難の次の課題は仮設住宅やみなし仮設住宅など住まいの確保」

能登半島地震の被災者にとって、2次避難の先にあるのが仮設住宅といった住まいの確保だ。石川県では2市2町で仮設住宅計175戸の建設が予定され、12日にも一部が着工。県外でも自治体が民間の賃貸住宅を借り上げ、無償提供する「みなし仮設住宅」の確保などが本格化している。

 

(10)「仮設住宅やみなし仮設住宅は災害救助法に基づき2年間無料で入居」

 自宅が全壊した人などを対象に、新たな住宅が確保できるまでの仮住まい先として無償提供される。災害救助法に基づく制度で、原則として2年間入居できる。

岸田文雄首相は5日の非常災害対策本部会議で、「時間のかかる住まいの確保対策に早期に着手する必要がある」と述べ、仮設住宅の建設準備などを指示していた。

 

(11)「仮設住宅着工、県営市営住宅確保」

12日から特に被害の大きかった輪島、珠洲(すず)両市で仮設住宅計115戸を着工。15日からは能登、穴水両町で計60戸の建設を始める。県営、市営住宅も計269戸を確保し、すでに50戸以上の申し込みがあった。

さらに、隣の富山県では13市町村でみなし仮設の受け付けを開始。大阪府でも、府営住宅など計300戸を被災者向けに開放するとしている。

(藤谷茂樹、小川恵理子、鈴木文也)

 

(12)「個別の事情考慮した対応を」(兵庫県立大院の青田良介教授(被災者支援政策論))

産経新聞の取材に以下のように語った。

「災害で学校などへ避難するのは、日本特有のあり方。

避難所に集まって生活すると、被災者同士の連帯感は生まれるが、プライバシーへの配慮などに欠ける場合がある。

例えばイタリアでは、公園や広場などにトイレや風呂が完備された大きなテントが設置され、家族単位で避難生活を送ることができる。日本も避難生活が長引く中で、家族の状況などに応じて柔軟な対応が求められる。

 

2次避難所や仮設住宅への移動

 環境改善などでメリットがある一方、高齢者や障害者、持病のある人には移動がストレスとなり、症状や病状が悪化する恐れがある。

 避難所の環境が悪化したからといって、個別の事情を顧みずに移動を促すのは乱暴だ。

 

まずは行政が一人一人に寄り添い、きめ細やかに対応していく必要がある。

ただ、行政だけでは難しい。被災者の対応に精通した団体などにニーズの聞き取りを依頼した方がいい。

 

東日本大震災では避難先の見知らぬ土地で疎外感を覚えたり、「故郷を捨てた」と言われたりして苦しむ事例があり、移動後のフォローも必要だ。(聞き手 小川恵理子)